2020年04月07日
Category サンガコラム終活
老いるについて―野の花診療所の窓から Vol.52
「花田ハナさーん」と、外来看護師が呼ぶ。診察室に入ってきたのは背の高い男性。そのあとを小柄なハナさんが入ってきた。二人とも88歳。体重計に乗る。43キロ変わらない。ハナさんは椅子に座る。ご主人は立ったまま、小声でこの一か月のことを陳述する。
「もうあきれます。シャツとパンツも分からんです。パンツは頭からかぶりますし、シャツやブラウス、前後が反対。最近ひどうて」。困り切った、という風ではない。笑顔のようなものも交じる。「トイレットペーパー、50センチくらいキツネのしっぽみたいに出して、自分で気が付かんです」。この時はちょっとおこり顔。でもどれもこれも、聞き入れやすい話だったが、次の台詞に、こちらも身構えた。「朝、なかなか起きてこんようになって、おい、起きよ!って言っても起きんので、ほうだま(ほっぺたのこと)張ったりました」。ご主人は反省したのかと思いきや、「効きまして、すっと起きてきて、用意したトーストとヨーグルト食べました。先生、ええもんですな、ほおだま張るって」と、ニコニコしておっしゃった。「いや、それって、ちょっとお父さん、家庭内暴力、ドメスティックバイオレンス、つまりDV、おすすめできない、ことなんですよー」とこちらも少し動揺する。
ハナさん昔、小さなお好み焼き屋さんを切り盛りしてた。中学生、高校生、労働者でにぎわった。ジュジュジュッーと油やソースが跳ねた。「あんたー、モヤシとキャベツ足りんよ」。「あんたー、出前3人前、寺町の山本建設」。「はいよ」。支配人はハナさん、ご主人が助手。この掛け合いも人気…