2019年02月07日
Category サンガコラム終活
老いるについて―野の花診療所の窓から
水曜日は往診日。患者さんはいろんな所に棲んでいる。マンションの8階、という人もある。マンションはエレベーターがあるから楽。市営団地という人もある。大概4階建てなので、エレベーターはない。コンクリートの階段を上るしかない。4階となると息切れがする。登山みたい。家に入ると、患者さんよりこちらの方が病人
みたい。
一戸建て住宅の2階の介護用ベッドに寝たきり、という人もある。その階段である。幅は1m以下で傾斜角度 度、と思えるくらいに急峻。頂上は見上げられない。左手に往診鞄に血圧計入りのバッグを握り締め、右手で、必死に階段の手すりを摑まえる。「こんにちはー、お邪魔しますー」と声は明るいが内心、滑落したら一大事、と決心しながら登頂目指す。患者さん、電動昇降機でとはいえ、よくこんな階段を上がり下がりして、デイサービスに通っておられるわー、と感嘆する。襖を開けると95才のアルツハイマー病のシズ子さんが、電動式介護ベッドに寝ている。「こんにちは」。呼び掛けても返事はない。
「さっきです、さっきから寝始めて」と同居の娘さん。「夜通し騒いで、お互い寝ずです」。どんな騒ぎか?と尋ねると、「連れて帰ってー!」の大叫び、と。家じゃない所に居る、と錯覚というか誤認というか、それで正常というか。娘さん、どう答えようかと迷っていると、「ハイッは?返事がないっ!」と叫び、そのフレーズの繰り返しだったらしい。アルツハイマー病に限らず、認知症と呼ばれる人たちって、どっかしっかりしているとこがある。シズ子さん、昔、お花とお茶の先生だった。…