明るい終活(1) | 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2019年05月24日

Category 終活

明るい終活(1)

法話「明るい終活」
2018年12月16日
講師:竹部俊惠 氏(富山県・妙蓮寺住職)

 今日は「明るい終活」という題でお話をさせていただきます。

 私は、昭和24年生まれの69歳であります。団塊の世代と言われる一番最後の年の生まれです。第一次ベビーブームで、とにかく同級生の人口が多い年代です。ですから、平成30年現在に生きていれば、誰しも69歳になり、大抵の方が地域での老人会の役員などをする年代でもあります。実は、私の住む富山県は、その老人会の組織率が日本一だそうです。私の同級生も老人会の事務局長をしていて、先日高齢者学級に、今日の「明るい終活」という題での講話を依頼されました。

 

 ところで、現在富山県の書店では、『富山は日本のスウェーデン: 変革する保守王国の謎を解く』という新書が爆発的に売れています。これは、慶應義塾大学経済学部の井手英策という先生が10年間富山県に通い調査をした結果を本にされたもので、帯には「なぜこんなに住みやすいのか」とまで書いてあるのです。しかし、北陸は自覚的幸福度が一番低いと言われています。もっと言えば「住みやすい」なんて思っていない。確かに、データ的には富山県が持ち家率日本一、生活保護の被保護率の低さは日本一、女性の正社員比率が日本一、勤労者世帯の実収入は全国で4位であります。

もう一方で、人口千人当たりの老人クラブ数は、全国最多でもあります。つまり、地域コミュニティーが非常に強い地域であるとも言えます。ところで、私の住む南砺市は人口が5万人で、65歳以上の人口比率は全体の37%です。全国の平均16%よりも高く、高齢化の“化”が取れ、高齢社会です。おそらく、あと20年すれば高齢化がさらに進み、人口が半分以下になるという予想も立っております。そして、そのほとんどが「真宗門徒」という場所であります。

 

 私と同級で、南砺市民病院の院長で地域の老人会長でもある方が、以前、高齢者学級という場で次のようなデータを紹介されました。南砺市全体の37%が高齢者であるが、その内、独り暮らしという家庭が15%、また介護を受けている人が5人に一人いるのだそうです。その中で、驚きの数字があります。それは、2017年に南砺市で亡くなっていかれた高齢者の中で、自死が16人おられたことです。僕は非常に驚きました。多いと思います。しかもその16人は全員家族と同居です。独り暮らしで自らいのちを絶った人は、一人もいないのです。

 

 私たちのイメージからすれば、独り暮らしが寂しくて、自らいのちを絶っていったのだろうと思いがちですが、全く反対なのです。独りでいることが寂しいのではなく、沢山の人がいるけれども、そこには強烈な孤独感があるということを鮮明に表している結果であります。

孤独と不安感

 年老いると、自分一人の力ではなかなか生活することはできません。他の方に力を借りなければいけません。ですから、“介護”は、年齢を重ねるにつれ当たり前の話になるのです。つまり、他に依存せざるを得ない。

 しかし、高齢者の中には、家族には迷惑を掛けたくないという思いの人があり、家族の中で身を引き、そして年老いても、他に依存するということが「悪いこと」だと考えてしまう。「わが子に迷惑を掛けたくない」というのは、非常に美しい言葉のようですが、その言葉を発する根底には、人に頼ることが悪いことという考え方で、ずっと生きてきたということではないでしょうか。人に頼らざるを得ない状況であっても、「私は今まで誰の世話にもならなかった」「自分の力で頑張ってきたんだ」という気持ちが、身の上に起こっている事実を隠そうとしてしまう。あるいは、プライドが高いことによって「頼る」ということを認めようとしない。つまり、善悪の世界でしか考えていないのです。

 その一方で「不安感」をもっているのも事実です。こんなデータがあります。以前、南砺市が、介護を受けている方や、70~90歳代までの方を対象に「あなたは幸せですか」というアンケート調査を行いました。すると、要介護度が高まるにつれて、あるいは年齢が高まるにつれて、幸せ度が低下していくという結果だそうです。90歳代になると、全く幸せではないと回答した方が17%いたそうです。不安感と苦悩を感じていながら迷惑を掛けたくないという気持ちがあり、家族と同居していながらも非常に強い孤独感がある。仏教ではそのことを、*源信僧都という方が「地獄というのは、孤独感」だとおっしゃっておられます。これが南砺市の高齢者の実態です。そのようなことがあって友人は「明るい終活」という題をもってきたのです。

我、今、帰するところ無く、孤独にして同伴無し。(源信『往生要集』)

*源信僧都(げんしんそうず)942-1017…平安中期の天台僧。特に浄土教思想への関心を強くもった人物。

続く>明るい終活2

竹部俊惠 (たけべ・しゅんえ)

富山県・真宗大谷派妙蓮寺住職

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