2019年02月07日
Category サンガコラム
小窓のあかり
理科の実験で使う白くてまあるいすり鉢をご存知だろうか。かつて、女子高生だった私は、そのすり鉢を探していた。というのも、当時私には山田直人君という彼氏がいた。並んで下校するだけで心躍った青春ど真ん中、友人たちとカラオケに行くと、一緒に来たはずの山田君の姿がない。探しに廊下に出ると、地獄を見た。山田君と級友のヒトミが唇を重ねている。私は気づかれないように踵を返した。別れの言葉も、心変わりの詫び言もなかった。自分の存在が殺されたあの日、私は脳内で山田君への復讐を決め、あの白くてまあるいソレで山田君を殲滅しようとしたけれど、ソレの名前はわからないままだった。
それから20年の歳月が流れ、先日偶然にも東急ハンズでソレを見つけた。『乳鉢』。その名にも驚いたけれど、手に取るとまさに乳房だった。こんなもので山田君をすり潰せるのかと思いきや、白くてまあるい乳房を前に、人類は無力だった。乳房が山田君を包ん
だ瞬間、山田君はキメ細かな粉末となり、ビュウっと風に散った。私の手のひらには乳房が一つ。やっとサヨナラができた。
堀江 彩木(渋谷区・諦聴寺)