相手の顔を見ながら話したい | 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2019年02月14日

Category サンガコラム

相手の顔を見ながら話したい

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 仕事先へ向かうのに電車を乗り継いで東京・渋谷駅で降りると、駅構内に小さな売店がある。「おはよう」と入ると、気っ風のいいおばちゃんが「は
いよっ」といつものたばこを出す。たまに「二つ」などと言うと「今夜は宴会かい。体に気をつけなよ」。「おばちゃんもな」と笑顔を返す。

 ささやかな会話だが、ラッシュにもまれた体に心地よい。コンビニではこ
うはいかない。何しろ顔なじみになることもないし、商品をカウンターに出
して電子カードのスイカを押して終わり。ひと言も発しない。

 仕事先でも会話は少ない。机を隣り合う人から「この資料を原稿にして下さい」というメールが来た時には驚いた。メール文書を打つのに手間がかかるし、結局はこちらからいろいろ尋ねるので始めから話した方が早いのに。

 パソコンやスマホでのやりとり。顔も会わせなければ、無駄話もない。そ
んな世相のせいか、昨年の「親鸞フォーラム」で聞いたゴリラ研究者の山際寿一さんの話が印象的だった。「人間は対面し、相手の目を追いながら感情を理解し、感情移入する共感力を築いてきた」。共感力、それが信頼関係を育み、社会資本の基盤になったということか。

 そう言えば数年前のことだが、米アップル創業者スティーブ・ジョブズが
我が子にアイパッドなどテクノロジー機器を使う時間を制限していると何かで知り、びっくりしたのを思い出した。彼は夕食の食卓で子どもたちと本や歴史を語らっていたという。

 山際さんの話を書きながら、ジョブスの逸話がふと浮かんだのはなぜだろう。「コミュニケーションの基本は相手の顔を見ながら」。その一点で通底
するものを感じたせいかもしれない。

 

井上憲司(元社会部記者)

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