2022年04月08日
Category サンガコラム
長女に初めて虫歯が発覚したとき、わが家には衝撃が走った。これまで虫歯菌をうつさないよう食事の器を分けるなど、細心気を遣ってきたつもりだったからだ。急いで歯医者を予約するも、長女は麻酔の注射が怖くて泣き出してしまい、一時間以上、粘りに粘ったあげく治療せずに戻ってきてしまった。妻にこんこんとお説教されるお姉ちゃんを横目に、次女は震えながら一心に歯を磨くのであった——。
『ドント・ルック・アップ』(アダム・マッケイ監督 2021年 )という映画を観た。巨大彗星が、六か月後に衝突することを観測した天文学者たちが、その危機を伝えようと奔走する。しかし、メディアはゴシップ報道に忙しく、政府は支持率上昇のために利用しようと画策し、企業はこれをビジネスチャンスとして捉えている。大きな危機が迫っているにも関わらず、目先の利益関心に捉われて、問題を先送りにする現代社会を皮肉的に描くブラックコメディーだ。自分自身その社会を構成する一員としてたいへん耳が痛い話なのだが、展開が素晴らしく夢中で結末を見守った。
コロナや温暖化など、地球規模の問題を前に個人ができることは限られている。暗い将来の話より、刹那的で楽な方に逃げたくなるのが人間だ。でも、だからこそ、一人ひとりの小さな気づきや行動習慣がとても大切なのだ。虫歯と彗星。まずは、しっかり歯を磨くことから。
花園 一実 (東京都台東区・圓照寺)
1982生まれ。圓照寺副住職。二児の父親。
『帰り道で話そうよ-マンガで味わうブッダの教え』(東本願寺出版)の原案を担当。