いざというときに鍵を託すだけ――現実的なデジタル終活の方法 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2023年03月22日

Category 終活

いざというときに鍵を託すだけ――現実的なデジタル終活の方法

●デジタルこそ日頃の整理整頓が大切

 

こんにちは。デジタル遺品を調査しているジャーナリストの古田です。

 いろいろと対応が追いついていなかったり、管理のしようがなかったりするデジタル資産ですが、自分に万が一のことがあったときの備えはどのようにすればよいのでしょうか? 最終回は現実的なデジタル終活の方法をお伝えします。おそらくは向こう数年間は役に立つ情報なので、ぜひお付き合いください。

 率直に言って、デジタル終活というのは――、

 1.デジタルの持ち物の現状把握
 2.緊急時の情報伝達の備え

 この2つがしっかりしていれば完了といっても過言ではありません。

 一般的な終活であれば、葬儀やお墓のこと、土地や家屋のことなどまで念頭に置くことになりますが、デジタルの領域はまだそこまで多岐には及んでいません。デジタルで管理しているお金や契約、デジタルでつながっている人間関係、デジタルで保管している情報やコレクション。これらを日頃からきちんと把握して整理しておくことが、1の「デジタルの持ち物の現状把握」となります。

 別の言い方をすれば「見える化する」ということですね。見える化できていれば、大切な情報を大切な情報としてきちんと掴んでおけます。膨大な情報の中に大切なメールを埋もれさせてしまったり、仕事のファイルと一時的にダウンロードしただけで用済みになったファイルをごっちゃにしてしまったりということを避けるようにする。家の大掃除と同じですね。

 前回も「デジタルのお金まわりも大掃除することが大切」だとお伝えしましたが、サブスクリプションなどの支払い契約もこまめにチェックしておけば、日頃から余計な支出が防げます。QRコード決済サービスの残高やポイントも把握しておくに越したことはありません。下記の内容に当てはまる持ち物(や契約)は、所在がすぐ思い浮かぶようにしておくと自分のためにも家族のためにもなるはずです。

・QRコード決済アプリ、金融機関のアプリなど、「お金」を保管している場所
・サブスク契約や通信契約など、定期的な支払いの契約
・仕事などの重要な情報の置き場所
・家族と思い出を共有しているファイルの置き場所
・隠しておきたい持ち物の置き場所

 つまるところ、デジタルの持ち物は日頃からごちゃごちゃのまま使い続けないことが肝心なのです。デジタルの世界には物理的な限界がないので、いとも簡単に複雑怪奇な迷宮が作れてしまい、本人であっても簡単には現状を把握できなくなってしまいます。このあたりの面倒さはデジタル特有といえるかもしれません。家具やコレクションが手で触れられるリアルの空間を軽く凌駕することは確かです.

 

 

●スマホのパスワードだけは伝わるようにしたい

 

二つ目は「緊急時の情報伝達の備え」です。自分の身に異変が生じたときに、家族に伝えるべき重要な情報がきちんと伝わるように準備しておきましょう。

 とはいえ、上記のお金関連のIDやパスワード、重要なファイルの保存場所などを丁寧にリストアップしていくのは、あまり現実的ではないように思います。完璧なリストを作り上げても、新たなサービスやファイルを追加したり、今愛用しているモノから気持ちが離れてしまったりしたら、その都度こまめに更新しなくてはなりませんから。

 長期的に備えるなら、極力手間をかけずに効果抜群なものに絞って準備するのがよいと思います。そこで私は、スマートフォン(スマホ)のパスワードだけは緊急時に家族に伝えられるように備えることを勧めています。

 なぜスマホのパスワードなのか。理由は3つ挙げられます。

 ひとつは、デジタルの重要な情報がここに集約されやすいためです。QRコード決済アプリはデジタル機器の中でもスマホにインストールすることが前提になっていますし、通話やLINEのやりとりといった直近の交流録も自然とここに溜まっていきます。また、5月からはAndroid端末がマイナンバーカードと連動できるようになるなど、身分証としての役割も大きくなります。

 実際、NTTドコモ モバイル社会研究所が10代から70代までのスマホ利用者を対象にとったアンケートによると、10代から60代までは、「破壊・紛失した際に困るもの」のトップには、免許証や保険証などの身分証を差し置いてスマホがトップとなったそうです。70代でも身分証が25%に対して、スマホは22%と肉薄していました(NTTドコモ モバイル社会研究所「2022年 スマホ利用者行動調査」)。

 スマホが日本国内に普及してまだ10数年しか経っていませんが、いつの間にか世代を問わずに生活に欠かせない道具にまで上り詰めてきたようです。それだけの道具になってくると、その入り口を開けるパスワードの重要度も自ずと上がります。デジタルで最重要な鍵であることは間違いありません。

 しかし、パスワードが分からないとスマホを開くことはほぼ不可能なのです。それがふたつ目の理由です。第一回でも説明しましたが、スマホのセキュリティはパソコンに比べても非常に強固で、メーカーも通信キャリアもパスワードを教えてくれません。銀行の地下金庫のような鉄壁であり、それを開くことができるのは持ち主が設定したパスワードだけなのです。持ち主自身がきちんと管理して、いざというときに誰かに託せるように備えておかないと、空かずの鉄壁が残されることになってしまうのです。

 以上のように影響力の大きいスマホではありますが、機種の更新頻度は年々伸びています。内閣府が毎年発表している消費動向調査によると、2022年度におけるスマホを含む携帯電話の買い換えスパンは平均4.6年となっています。2012年度は3.5年だったので、10年間で1年以上伸びたことになります。

 いまでは同じスマホを4年以上使い続けるのが当たり前になっているわけです。設定したパスワードを変更する人はそう多くないでしょう。すると、一度スマホのパスワードの伝達を準備してしまえば、4年は安泰というわけです。これだけ重要度の高い持ち物でありながら、一度の備えでそれだけ長期間の効力が発揮できる。終活全体でみてもかなりの効率の良さだと思いませんか。これが最後の理由です。

●「スマホのスペアキー」を作りましょう

 

では、肝心の備え方ですが、これも簡単です。必要なのは名刺大のカードとペン、修正テープだけです。

 カードは表面光沢があり、ある程度の厚みがあるものが理想です。私はこれを「スマホのスペアキー」と呼んでいまして、ひな形をホームページ(https://www.ysk-furuta.com/download)で公開しています。もしよかったらダウンロードして厚紙に印刷してみてください。

 作業は自分一人でいるときに行ってください。まずはカードにご自身のスマホの特徴とパスワードを記入します。記入日も添えておくとより良いでしょう。

次にパスワード部分だけに修正テープを走らせます。一回だけでは透けてしまうので、2~3回重ねてください。インクが裏から透けて見えるようでしたら、裏側も同様に2~3回修正テープを 走らせます。

このカードを、預金通帳や実印などの大切なものを置いている場所に入れて一緒に保管します。

これで完了です。パスワードを共有することはセキュリティ上好ましくありませんから、普段はしっかりと隠しておく必要があります。それでいて緊急時には、家族等に他の重要書類と一緒に見つけてもらい、コインなどで修正テープを削って受け取ってもらうというわけです。

 もしも元気なうちに修正テープが削られてしまってもはっきりと痕跡が残るので、気づいたらすぐにパスワードを変更することで対処できるでしょう。

 スマホを含めて、デジタルの道具はとても便利です。日進月歩で新たなサービスが登場しますし、いまいち正体が掴みにくいところもありますが、勘所さえ押さえておけば安全に楽しく利用できると思います。デジタルの大掃除とスマホのスペアキー作り。この2点だけ覚えてもらえたら嬉しく思います。最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

 

 

 

前回のコラムはこちらからご覧いただけます

<Profile>

古田 雄介(ふるた・ゆうすけ)

デジタル遺品を考える会代表/ジャーナリスト

1977年名古屋生まれ。名古屋工業大学開発工学科卒業後、建設現場監督と葬儀社スタッフを経て、記者業に。

2010年から死後のデジタル資産の行く末についての調査を始める。

近著に『デジタル遺品の探し方・しまいかた、残し方+隠し方』伊勢田篤史氏との共著/日本加除出版)、『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)など。

 

 

 

 

 

 

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