お別れと継承がおこなわれる装置|終活コラム 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2022年09月15日

Category 終活

お別れと継承がおこなわれる装置   

東本願寺真宗会館の「終活コラム」です。今回のコラムテーマは「葬儀」です。終活を考える時に大きな要素の一つ「お葬式」。今回は葬儀の現場を数多く担当されてきた増井康高(ひだまり手帳合同会社代表・株式会社デジタルAI取締役副社長)さんから、「別れの場」を通して「引き継ぐ」ということを考えていく内容です。

コミュニティの変化

 お葬式は相互のコミュニティのお別れの装置であると私は長年業務に携わり、そう義務づけてきました。もちろん家族・親戚・友人・地域・職場など以前からのコミュニティ、今後はスマートフォンなどの普及によりSNSを活用した個人的なコミュニティも増えます。

  会ったことはないけれどソーシャルゲームの友達も増えるでしょうし、趣味の世界の友人はものによってはSNSの方がコミュニティとして親和性の高いジャンルもあるでしょう。イベントを行わないとコミュニケーションがなかったジャンルをSNSが補完しています。

  愛犬のコミュニティなどはその例でしょう。イベントを行わないと出会えなかった飼い主同士が相談しあえたり、愛犬の姿を喜び合えるコミュニティがきっと存在しているはずです。

 しかし、SNSを活用したコミュニティは個人の世界になっていて、親戚・友人・地域・職場など以前からのコミュニティは人によっては家族ぐるみの共通の付き合いで、ファミリー単位の行事としてお葬式は機能してきたこともあり、親和せずに、現状小規模なお葬式が増えている、家族ぐるみでお付き合いする人が減ったのが現状ではないでしょうか。

 パンデミックもあり、人が参集すること自体が貴重な時代となりました。そんな中、あえてお葬式を行うことの重要性について筆をとった次第です。

お別れと継承がおこなわれる装置

 家族・親戚・友人・地域・職場など以前からのファミリー的コミュニティが機能してきた時代とは違い、人生も長くなり、数多くの日本人が個人的なコミュニティへの参加が可能な時代となりました。

 ファミリー的なコミュニティと檀家制度に伴うお葬式のスタイルがマッチしてきた過去とは違い、お葬式というコンテンツが背負う環境や役割は変化しています。 しかし、その中心はあくまでも個人を偲ぶというものであることは変わりません。 取り仕切る方がもっとも人生の時間をともに過ごした相手である場合が多く、もっとも偲ぶべき方であるはずです。 そのお別れに集中していただきたいと葬祭サービス事業者としてはいつも考えております。  

 それが近親者のみの葬儀であれば弔いに集中する可能性は高くなりますが、当然ですがそういうわけにはいきません。故人様の人生は一番近くにいたあなたとの想い出だけではないのです。 たくさんの人間関係の中で相互に成り立ってきた人生にお別れをすることになります。 そして、最も大切にしてきたあなたの将来がずっと幸せであってほしいと願うことでしょう。  

 そのための継承がおこなわれる装置が「お葬式」であるともいえます。 そのひとつひとつの人間関係に対し、相互にお別れを告げ、相互に引き継がれた方との新たな関係を築いていくことでカタチは変われど、故人様の思い・・・残された遺族の幸せが実現される確率があがると思います。

 

比較検討の自由度と容易な消費

 前述のように、現代はインターネットの時代です。 インターネットを活用し、WEBサイトを閲覧するために検索エンジンを活用します。 現代人がなぜそのような行動をとるかといえば、ズバリ何かを知りたくなり、調べたいからであります。

 かつては、深夜に知りたいことが頭をよぎったら、あくる日、本屋さんや図書館・公共機関、専門のお店などに行くしかありませんでした。 もしかしたら、平日だったら休日を待って調べたり、平日にしか成し遂げられない調べものならば、有給が取れそうなチャンスを計画する必要があったと思います。 書籍に比べ、正確な情報である確率は低くてもその情報にたどり着くスピードは格段にグレードアップしました。

 さらに、検索エンジンは私たちに「記憶する」ことを忘れさせるほどです。「外部記憶媒体」としての地位を獲得しつつあることでしょう。 当初は疑問を持ち、調べただけだったとしても、最近はそれをそのまま購入することもできます。

 A.I(エー・アイ)で「これを買った方はこれも買いました」と提案が始まるようになりました。購入にあたっては、様々な比較検討を行えるようにデータが記載されています。とてもすばらしいことです。 今後は通信速度も上がり、遅延しなくなり、ロボット工学が進歩し、テクノロジーはさらなる未来に我々をいざなうそうです。

 インターネットの普及により、比較検討の自由度が上がり、消費の輪郭は色濃くなってきました。 様々な基準で比較検討を多角的に行うことで自らが必要なものにたどり着くことが容易になっているように思えます。

葬儀社は何を販売しているのか

 それでは、私たち葬儀社は何を販売しているのでしょうか。 お魚屋さんは魚介類を、八百屋さんは野菜や果物を販売しています。 同様に誤解を恐れずに申し上げるならば、私たち葬儀社は葬儀を販売しているのでしょうか。  具体的には「喪主様がお葬式を取り仕切る(運営していく)上で必要なものや事柄を提供するサービスが葬祭業である」と、私は思っています。

 皆さんがテレビを購入するとします。  まず、テレビを買うとしても自宅と職場では違うでしょうし、自宅でも自分の部屋と居間では異なりますし、相談する相手も変わるでしょう。お風呂場だったらまた違う問題もありそうです。 大きさもメーカーも解像度も機能的なことも色や形も比較検討する軸は様々です。 配送してくれるか自分で取りに行くか。配送でも設置してくれるか。保証はどこまでしてくれるか。ポイントを取得できるか。電子決裁サービスが利用できるか。 あるいは、これがいいと決めたのに、あんまり好きじゃない知人が同じものを持っていると知って、辞めたり・・・

 書くと長くなりますが、現代人はとてもたくさんのファクターを用い、消費を選択することを自然に行いますが、これらはWEBサービスを利用すると、それは快適に行うことができるという話ということなのだと思います。 消費行動は比較基準を決め、その基準のもと検討し、決断します。それは消費者の正当な権利として経済社会を支えております。だから、お金を払うということは消費者として認められることになります。自由に欲しいものが買えます。 「思うが儘である」と、現代人は考えているように思えます。実際にそうなのかもしれません。

 そういう意味では、私たち葬儀屋は葬儀を販売しているのだから、喪主様が施主様である場合が多く、喪主様は消費者でお客様であり、「お客様は神様です」となります。喪主様は消費者として何を購入しているのでしょうか? 葬儀屋さんを召使のように使うことでしょうか?葬儀屋さんの持つ情報でサポートしてもらうことでしょうか? だとすると、何をサポートしてもらうことでしょうか? もしくは、何を得るために葬儀屋さんの依頼するのか?葬儀屋さんに頼まないと葬儀はできないのでしょうか? ほとんどの方は葬儀屋さんに依頼して、葬儀を取り仕切りますが、なぜでしょうか?  

 喪主様は「お葬式」を取り仕切ることを親族を代表して行います。 「お葬式」を購入した喪主様は「お客様=神様」となる消費論理にはあまり似つかわしくないと感じます。 喪主様はお葬式の場を取り仕切ることを親族を代表して有する、もしくは故人様にとって最も近親者であることから義務が発生します。 不慣れなものや手間暇を惜しむと、現代では企業サービスが存在すれば、それを利用するのが常です。 それが葬儀社です。

故人との関係者の気持ちを慮る

 前述のとおり、お葬式の場自体、お葬式自体を購入しているわけではないのです。 しかし、前述の消費論理からか、非常にわかりにくい状況となり、誤解が生まれやすいです。 どこで行うか、祭壇や棺はどんなものにするか、などは喪主様が決めますが、それは「関係者が納得するだろう」という仮定や想像力で行うことが適切ではないかと考えます。

 ましてや、参列者が気持ちを示すためにお花を手向けたり、お香典を出したりすることを喪主様が禁止することも危険です。生花辞退・香典辞退などがそれです。  喪主様が「負担をかけたくないため」と言っても負担かどうか考えるのは、お気持ちを添える方の選択の自由ではないでしょうかと思うのです。

増井康高(ひだまり手帳合同会社代表)

 

増井 康高(ますい・やすたか) ひだまり手帳合同会社代表
家族の死を経験し大手葬儀社に入社し。葬儀部門のみならずWEB担当・システム担当などを経験し、WEB受注を中心とした葬儀社を創業。20年間で約2000件の葬儀の現場を担当。
2021年には「デジタル終活グループ」を運営し、デジタル遺品の生前対策のみならず終活のデジタル化を推進。 2022年相続診断サイト「ひだまり手帳」を立ち上げ、株式会社デジタルAiでは見守りスマートウォッチシステム「守るリンク」を手掛ける。

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