お寺の掲示板Vol.5 | 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2019年09月04日

Category サンガコラム

お寺の掲示板Vol.5

世の中が便利になって
一番困っているのが、
実は人間なんです

(浅田 正作)

 「この先どうなるのですかねぇ」って言ったのは、カウンターの向こうにいるバーテンダー氏。AI(人工知能)の発展によってなくなると言われている仕事にバーテンダーが入っていたらしい。「まさか、それはないでしょう」と答える。AIロボットが作るお酒を飲みたいとは思えないし、レシピ通りにできるとしても、バーに行く理由はそんなものじゃない。けれども、これからどんどんとあらゆる場面でAI化は進んでいくだろうし、そのことによって、社会生活や仕事の内容は確実に変化していく。きっとその恩恵を受ける暮らしにも慣れていくのだろうと、少々自虐的な話をしていた。

 たしかに、いくつかの仕事はAIに代替されていくのだが、その分以上に、新しい仕事が生み出されるのだと専門家は言っている。さらに、極端だと思うが、これまでのように仕事をしなくても暮らしていけるのだと。本当にそんな時代が間もなく来るのだと思うと、期待感もあるが不安感も大きい。

 たとえば、先のバーテンダー氏は、この仕事に憧れて入り努力を重ねている。その仕事が彼から奪われたとき、彼は何をするのか。私たちは、会社や家庭で社会の中で、さまざまな仕事をして生活し生きている。そこには少なからず誇りを持ち役割を担っている自負がある。もし、その仕事がなくなるのだとすれば、すぐに新しい仕事に移ることができるのだろうか。そんなに簡単なことではない。

 AI化が進むことによって、私たちの暮らしぶりに大きな変化が訪れることは容易に想像できる。その速度についていけるだろうか。ついていくのだろうか。

 ミヒャエル・エンデ作『モモ』の登場人物に、時間貯蓄銀行の灰色の男たちがいる。彼らは街の人々に時間を節約して効率化をうながし「成功すること」「ひとかどのものになること」をすすめ、実際には人々の時間を奪っていく。そうして時間を預けた街の人々は、みんな時間に追われるようになり心もギスギスするようになって、みるみるうちに街から生気が奪われていく。物語は、主人公のモモが仲間たちと、灰色の男たちと対決し時間を人間に取りかえすストーリー。実は、この灰色の男たちとは、実体がなく、いまで言うと〝世の中の空気感〞みたいなものだ。

 ますます進歩発展していく中で、いよいよ人間の存在意味が問われる時代が来ているのだと思う。

不二門 至淨(ふじかど・しじょう)
千葉県/真宗大谷派・流山開教所

最新記事
関連記事

記事一覧を見る

カテゴリ一覧
タグ一覧
  • twitter
  • Facebook
  • Line
  • はてなブックマーク
  • Pocket