2024年11月12日
Category サンガコラム
年明けの頃、初めて家族で映画館へ行った。お目当ては『窓ぎわのトットちゃん』。原作は黒柳徹子さんが自らの幼少期を綴った、言わずと知れたベストセラー作品だ。評判に違わず、アニメーションもお話も本当に素晴らしく、鑑賞中は私も妻も感動で何度となく涙を拭っていた。
映画が終わり、感想を聞いてみると「わたしも泣いちゃったよ」と長女。ああ、映画を観て泣けるような年齢になったんだなと、なんだか感慨深い。すかさず妻が「ねえ、どの場面で泣いたの?」と、感動を共有すべく長女を質問攻めにする。
「えっ、なんで言わないといけないの」
「えー、いいじゃない、教えてよ」
そんなやりとりを何度か繰り返すうちに、長女はぷんぷん怒り出し、早足で私たちの前を歩いて行ってしまった。
そんな長女の後ろ姿を見ながら、私は自分の心に新鮮な風が吹くのを感じていた。そうか、別に話さなくてもいいのか。自分の心が動いたのなら、その感動は何よりもまず自分だけのものとしてあるべきなのだ。SNS全盛の時代、思い出も感動も気軽にシェアすることが当たり前になった世の中で、すっかり忘れていた気がする。心を開き、誰かと感動を分かち合うことは大切だが、誰にも言わず、宝物のようにそっと自分の心の中に秘めておくことも、きっと同じくらい大切なはずだ。いつか彼女の秘めた思いが、自然にあふれ出すその時まで、映画の感想は気長に待つことにしよう。
花園 一実
1982年生まれ。圓照寺住職。二児の父親。
『帰り道で話そうよ-マンガで味わうブッダの教え』(東本願寺出版)の原案を担当。