娘の恋|サンガコラム「小窓のあかり」 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2024年03月01日

Category サンガコラム

娘の恋

小窓のあかりVol.44

 5歳の娘には、2年ほど片思いしている子がいる。相手は、同じ幼稚園のちはるちゃん。画用紙にちはると100個ほど書き、部屋に貼る。寝る前にちはるちゃんを思い出し、ニヤニヤする。同じ体操教室、ピアノ教室へと追いかけ、ちはるちゃんのお母さんを苦笑いさせるほど好き過ぎるのだ。

 一方、ちはるちゃんは見事なツンデレで、たまーにしか遊んでくれず、そこがたまらない。常にちはるちゃんの隣をキープし、近づいて来る子たちを蹴散らす娘。担任の先生が「ほかのおともだちもいれてあげて」と言っても聞かない。「ほかのおともだちは、ちはるちゃんだけをすきじゃないからダメ」。自分はちはるちゃんだけを好きだから独り占めしていいという理屈らしいが、そんな愛情を押し付けられる方もたまったもんじゃない。ちはるちゃんは進級を機にだんだんと娘を避けるようになり、りんちゃんという子と仲良しになった。以前から、娘に蹴散らされていた子の一人だ。

 大ショックの娘は、泣いてばかりの日が続いた。幼稚園の教室に入ることさえ拒否し、私が苦戦していると、りんちゃんが娘に言った。「りんちゃんもね、ちはるちゃんだけがすきだからだいじょうぶだよ」。その言葉に娘の顔がパアッと明るくなった。娘はりんちゃんに抱きついて「よかった」と言った。りんちゃんも娘を抱きしめ「ありがとう」と言う。そんな二人を傍で見ていた私は、いびつだけれど強烈な愛を見せられた気がして茫然とした。そして、この日を境に、娘はりんちゃんを追いかけるようになった。聞けば、今は「ちはるちゃんだけをすきなりんちゃんがだいすき」だそうだ。

 

 

 

 

堀江 彩木

諦聴寺坊守。
ねじめ彩木のペンネームにて、数々のテレビドラマの脚本を手掛ける。


《脚本作品のお知らせ》

NHK総合 夜ドラ「ユーミンストーリーズ 冬の終り
2024年3月より毎週月曜日~木曜日22時45分放送

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