2019年10月21日

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匂いと風景と記憶

小窓のあかりVol.18

まとわりつくような湿度の高い空気。窓から入り込む濃い緑と土の匂いが、じっとりと鼻の奥にこびりつく。その瞬間、小学生の頃の風景が甦った。

夏休みの宿題で書いた私の絵が、よく描けていたのでコンクールに出品することにした、と先生から言われた。絵は全く得意な方ではなかったので、驚きながらも嬉しかった。読んだ本の一場面を描いた絵で、本の名前は『かもとりごんべえ』。今でもしっかり覚えている。

なぜ、こんなに鮮明に思い出したかというと訳がある。先生から、コンクールに出品する為に、同じ場面の絵を新しく書き直してほしい、と言われたのだ。理由は忘れた。ただ、小学生の私には知る由もない大人事情によって、私の描いた絵が選ばれていながら、条件付きで否定されたのだ。書き直している時の納得出来ない気持ちが、夏の夜の重苦しい深い匂いと結びついて、印象深くその風景の記憶として残っているのである。

今、絵本の一場面を学校で描いてきた子どもの絵が、家の中で一番目立つ壁に飾ってある。父親が立派な額に入れて飾ってくれた。子どもが自由に感じたままを創造し表現した絵はすてきだ。その場そのままを喜ぶ力が子どもにはある。子どもの表現や素質に干渉は不要だ。あるがまま を無条件に大事にされた風景を、子どもも結びついた匂いと共に記憶していくだろう。

島津 和嘉子(新潟県・長養寺)

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