2023年11月01日
Category サンガコラム
東京・中野の区立小学校で、子どもの登下校の見守りを始めて3年目になった。学校の控室で「シルバー人材センター」と書かれた緑色のベストを着て、さらに「通学路児童見守り」のタスキをかけ、混み合う一方通行の道路へ向かう。
当初すぐ気になったのが、握った「横断中」の黄色の旗を水平に出すことだった。「これでは低学年の子どもの顔の高さ。何かの弾みで当たったら危ない」。で、旗は左手で垂直に掲げ、右腕で車に「待って」の合図をしながら頭を下げたり、腕を振って子どもに横断を促したりのやり方にした。
とはいえ、子どもがこちらの誘導どおりに動くとは限らない。下校時は授業からの解放感もあってか、もしも、友だちなどが離れた所から手を振るのを見つければ、周囲に目もくれずに飛び出すことも。「走らない」と大声をあげても興味がある方向へ突進だ。
もっとも小さな子どもの視線では遠くまで見渡すことは難しい。しゃがんで彼らの目の高さで眺めれば分かる。
危ない時はこちらの出番だ。車がやって来る方向を腕で指し、「クルマ」「クルマ」と、運転手に見えるように、子どもに向かって口を大げさに動かす。要は「ここに子どもがいるよ」と気づいてもらうためだ。身振り手振りによる運転手とのコミュニケーションが欠かせない。
見守りで知ったのだが、「おはようございます」「たいへんですね」と声をかけてくれる人が少なくないこと。それも年配者から若い勤め人まで。意外だった。現役のころの自分は通勤電車の不機嫌な空間しか知らない。
道路には幼稚園バスにデイサービスや人工透析の送迎車、訪問診療車にゴミ収集車、新手の英語保育の送迎バス……。杖をついて1分歩いては休み、また歩くといったように、懸命に歩く何人かの高齢者も目にする。 見守りの先に「みんな一緒に生きている」という遠景が浮かぶ。「一緒に生きている」。それを自覚し確かなものにしなければと思う。
井上 憲司(元社会部記者)