シリア人の少女が教えてくれたこと

 

　シリアで内戦が始まり12年が経った。どれだけの人が今も関心を寄せているだろうか。分断を引き起こすのは人々の無関心。無知よりも、知っていながら目を逸らすことが何よりも当事者を傷つける。私が辛うじてシリアを想い続けていられるのは、かつてある少女に出会ったからだ。

　ヨルダンにあるザアタリ難民キャンプ。砂漠の真ん中に設けられたこのキャンプでは今も約８万人のシリア人が避難生活を続ける。当時小学５年生だった女の子ビサーン。人懐っこい笑顔で取材中ずっと私の隣で色々な話を聞かせてくれた。父と生き別れ、母と兄の３人で逃げてきた。将来の夢は小児科医になること。子どもたちを助けたいと、はにかみながら教えてくれた。

　取材の翌日、ビサーンは母親に連れられキャンプを出て行った。ここには希望がないと苦渋の決断をした。故郷は過酷な戦闘があった地域。それでも母親は選択した。先日、報道でその街では帰還者が逮捕されていると知った。ビサーンに会いたい。どうか、どうか生きていてほしい。

 

 

 

堀 潤（ジャーナリスト・キャスター）

1977年、兵庫県生まれ。2001年にNHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター「Biz スポ」キャスター等、報道番組を担当。2012年、市民ニュースサイト「8bit News」を立ち上げ、2013年4月1日付でNHKを退局。現在は、TOKYO MX「堀潤モーニングFLAG」のMCをはじめ、AbemaTV「AbemaPrime」、読売テレビ「ウェークアップ」などに出演し、国内外の取材や執筆など多岐に渡り活動中。2020年、自身で監督、出演、制作を行った映画「わたしは分断を許さない」を公開。