2022年08月03日
Category サンガコラム
破壊された家屋の前で自身の経験を語ってくださるジェーニャさん
ウクライナ、首都のキーウから北西約24キロに位置するブチャという街では、ロシア軍の侵攻により、400人以上の市民が殺害されたと見られている。生存者の証言からは、耳を塞ぎたくなるような凄惨な拷問や、性暴力の様子が浮かび上がってくる。破壊された住宅の脇でお話を伺った男性、イルヘニ・ジェーニャさんは、ブチャ近郊のボルゼルという街に暮らしている。医師であるジェーニャさんは、侵攻中も現地にとどまり、支援の届かない地で人々を支え続けてきた。
「兵士たちは、我々の家から何もかも強奪していった。ある男性は、兵士たちの集団にレイプされた挙げ句、翌朝自殺してしまったんだ」と、ジェーニャさんは声を震わせながら語った。自身もまた、酷い暴力を振るわれたという。あまりにも過酷な経験をしたジェーニャさんは、近く国外へと逃れる予定だ。人権を基礎とする世界を築いていくためにも、こうした個々の痛みから目をそむけるわけにはいかないだろう。
佐藤 慧( フォトジャーナリスト/ライター)
1982年岩手県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト、ライター。同団体の代表。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、紛争、貧困の問題、人間の思想とその可能性を追う。言葉と写真を駆使し、国籍−人種−宗教を超えて、人と人との心の繋がりを探求する。アフリカや中東、東ティモールなどを取材。東日本大震災以降、継続的に被災地の取材も行っている。著書に『しあわせの牛乳』(ポプラ社)、同書で第二回児童文芸ノンフィクション文学賞など受賞。東京都在住。