コラム|103歳の撫子 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2020年12月18日

Category サンガコラム終活

103歳の撫子

老いるについて―野の花診療所の窓から  Vol.57

 日本人の百歳以上の人口は8万450人(2020年9月1日、厚労省発表)。1998年に1万人を超えたあとの増加の勢いは年毎に増す。年間死亡数は130万人を超えている。片方で死亡数は年々増加し、片方で生きている人の中では百歳超えをする人が年々増加する、という時代になった。地方の臨床の場でも、百歳の人は珍しくはなくなった。統計が示しているように(女性88%、男性12%)、多くは女性。

 最近出会ったセンテナリアン(百歳以上の人)の女性は103歳の大和撫子、上品な女性。食欲はあり、食後自分で歯を磨き、鏡を見て髪をとく。慢性心不全で酸素を吸っていて、息子さんと二人暮らし。近県に住む二人の娘さんが時々介護にやってくる。その時は息子さんは息抜きに登山に。4年前、その女性は家で転倒。右大腿骨頸部骨折。救急車で総合病院へ行ったが手術は断念、経過観察。それでも歩行器で室内が移動できた。

 1年前には乳癌を発症。百歳を過ぎても癌は発生する。高齢者の発癌率は若者より高い。癌の勢いは、百歳だと弱そうに思えるがそうとは限らない。女性の癌はピンポン玉くらいに増大した。皮膚を破って顔を出すようになった。その後肺炎を併発し、ぼくらの診療所に入院した。ある夜、病棟中に大声が響いた。「おとうさーん、おとうさーん」。太い声だった。認知症のA男さんか、夜間せん妄のB男さんか。違った、103歳の撫子さんだった。孫たちから「おとうさーん」と呼ばれていたわが息子を呼んでいた。連夜。センテナリアンの中には、その年齢のその人なりの体と心の変化が、赤ん坊や青…

こちらはサンガネット会員限定記事です。
サンガネット会員(有料)になると続きをお読みいただけます。

ログインして全文を読む

最新記事
関連記事

記事一覧を見る

カテゴリ一覧
タグ一覧
  • twitter
  • Facebook
  • Line
  • はてなブックマーク
  • Pocket