2019年09月04日

Category サンガコラム

ゼリーも桜もちも 誤嚥する

老いるについて―野の花診療所の窓から  Vo.49

 高齢者に関することが新聞に載らない日はない。事件の中身は一つ一つ違う。先日は、熊本の介護老人施設で80代の女性にゼリーを食べさせていたら急に呼吸が止まり、看護師が呼ばれて気管内吸引をしたら、1センチくらいのゼリーが出てきたが死亡。医者は死亡診断書の死因欄に「老衰」と書き、「窒息」と記さなかったことが取り上げられていた。

 この記事を書いた記者は、死因に虚偽があると追及したいのではないかと読めた。その施設に常勤医が置かれていないこと、呼ばれて2時間以上経って、理事長の76歳の医師がやってきて、家族にはゼリーの話をしていなかったこと。関連の施設を合わせると、そのころの4か月間で11人が亡くなっている事実を取材で入手し、その施設の体制について批判したかったように読めた。

 読者には「何と悪い医者」と読めるような記事である。はて、と考える。医者も決して若くはない、同業者として同情も覚える。

 似た経験がある。訪問診療をしていた97歳の女性。行きつけのデイサービス施設で桜もちの小片を喉に詰まらせた。救急車で総合病院に運ばれ命を取り止め、誤嚥性肺炎で10日入院し、そのあとこちらの診療所に転院となった。小康を得ていたが寝たきりとなられ、沈下性肺炎となり痰が沢山でるようになった。痰を染めて見ると、抗生剤の効きにくいMRSA菌。ある日その痰を喀出できず、見る間に呼吸停止。心マッサージを看護師が、ぼくが気管内のおびただしい痰を吸引した。自発呼吸が戻ってきて、やれやれということがあった。慌てて病室に駆け込んだ息子夫婦、胸をなでおろした。愛情が感じられた。「ありがとうございました。でも先生、もう痰の吸引や心マッサージ、可哀そうですので……」。

 日本中で老人施設は新しくでき、造設され、老人は次々に運び込まれる。双方にコミュニケーションが育つ間もなく、誤嚥は勃発し、その間にも次の老人が入所してくる。 嚥下力とコミュニケーション力が育つにはどうしたらいいのか。どこまでを生きたらいいのか。老いの国、日本は問われている。

 

徳永 進 (医師)
1948年鳥取県生まれ。京都大学医学部卒業。鳥取赤十字病院内科部長を経て、01年、鳥取市内にホスピスケアを行う「野の花診療所」を開設。82年『死の中の笑み』で講談社ノンフィクション賞、92年、地域医療への貢献を認められ第1回若月賞を受賞。著書に、『老いるもよし』『死の文化を豊かに』『看取るあなたへ』(共著)など多数。

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