2020年12月15日
Category サンガコラム
学生時代、文章を書くことは恥をかくことだと教わった。どんなに短い文章でもその人の人となりが出てしまう。素直な人は素直な文章を書くし、嫌なヤツは嫌な文章を書く。嫌なヤツの文章の方が面白かったりするけれど。書くことは内面をさらすこと。恥をさらして一人前だと先生方に言われ続けてきた。だから、自分の痛々しい内面を書き連ねて、恥をさらした。恥をさらせばすべて面白くなるわけではないが、一人でも多くの読み手に共感と救いを与えられると信じていた。
現在、週に二度、大学でシナリオの講師をやらせてもらっている。ある女子学生のシナリオがあまりにも挫折のないハッピーストーリーだったので、「死んでしまいたいくらい恥ずかしかったことってあるよね。そういうのを入れると面白くなるよ」と言ったら、彼女は不思議そうに私を見つめ、「ないです」と言った。「本当に?」「はい。でも、どうして恥をさらさなきゃいけないんですか」。私は明確な返事ができなかった。
結果、彼女の作品は教授陣の選考からは落ちたが、学生の間で幸せな気持ちになれるとダントツの人気を博した。
20年間、書くことは恥をかくことと信じてやってきたが、どんな文章を書いてもその人となりが出るのであれば、彼女の書いたものが今の彼女なのだと思い始めている。はたまた、私は本当に恥をかいてきただろうか。教えることの難しさにいよいよ挫けそうだ。
堀江 彩木(東京都渋谷区・諦聴寺)