2021年12月14日
Category サンガコラム
1年ほど前、長女の小学校の給食風景を見る機会があった。座席は移動させず、みんな前を向いたまま。食事中の会話はもちろん禁止。教室は驚くほど静かだ。なるほど、これが黙食というやつか。考えてみれば、入学当初からコロナ禍にあった長女は、友だちとおしゃべりしながらご飯を食べるという経験を一切していない。そんなことに気がついてからは、せめて家族間だけでもと、食事中はなるべく目を見て、たくさん話を聞いてあげるようにしたいと思っている。
ゴリラの生態研究で名高い山極寿一さんは、他の霊長類にない人類の大きな特徴に「食物の分配と共食」ということを挙げられていた。数百万年前、ジャングルから、天敵だらけのサバンナに飛び出した人類の祖先は、安全な居場所を確保し、そこに食べ物を運ぶことを覚えた。そして安心できる環境で、みんなで一緒にご飯を食べることによって、社会性や共感能力を育んでいったのだという。食卓を囲むことは、それほど私たちの関係性の根っこにあるものなのかと感心させられる。
食欲の秋。つまみ食いして怒られる長女と、今日もお箸の使い方に苦戦している次女。他愛のない会話。テストの点数よりも、当たり前のようなこの食事の風景こそが、きっと何よりも尊いのかもしれない。
花園 一実(東京都台東区・圓照寺)
1982生まれ。圓照寺副住職。2児の父。
『帰り道で話そうよーマンガで味わうブッダの教え』(東本願寺出版)の原案を担当。