生きていることの力作家|作家 石井光太さん 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2022年12月04日

Category インタビュー

生きていることの力

作家 石井 光太さん

大学1年生のとき、初めて海外に出かけアフガニスタンの難民キャンプに行った。そこには世界の貧困を凝縮したような光景があった。道の両側に数え切れない物乞いが座っていた。眼球を二つとも失った少女が「1ルピー、1ルピー」と言って近づいてきた。石井さんはたまらなくそこから逃げた。

 もの書きをめざしていた石井さんは、大学卒業後、もう一度海外へ行って、物を乞う人々と触れ合い、語り合ってみなければならないと思った。20年前のアジアだ。不自由な身で生きる人々の姿は、傲慢な思い込みや、ありふれた先入観を打ち砕いた。その経験が『物乞う仏陀』というデビュー作となった。

 それまでニュースというものや新聞による報道は100%正しいものだと思い込んでいたんですね。けど、実際は全くそんなことは1%もなくて、新聞で得たものを現場に行って聞くと、全部ひっくりかえされるわけですね。

 例えば、栄養失調でおなかを膨らませている子どもは「かわいそうで死んでいく子ども」ばかりではないのです。栄養失調で生きている子どもって、おなかが膨れながらサッカーをするんですよ。つまり生きていくことに対して前向きでないと、生きていくことができないのです。

 人間が生きるということはそういうことなんですね。その人間の生きることへの力に出会ったときに、ぼくは無条件で感動したんです。そしてその感動をもの書きの人間は伝えるしかないと思ったのです。


 コロナになって不登校の子どもが20万人から24万人に膨れ上がったという。石井さんは「反社会の子ども」が減って「非社会の子ども」が増えていると言う。

 2000年くらいを境に、レールからこぼれ落ちた子どもたちのあり方が変わっていきました。それ以前は不良文化というものが存在していたんです。まだアナログの時代で、インターネットがない時代でした。それが24時間、365日引きこもれるインターネットという環境ができてきたわけです。

 反社会ではなく非社会、つまり社会から消えてしまい、ブラックボックスの中に入ってしまう。世の中に対して希望を見いだせず、自己否定感も強いため、一つのことが続かない。「もういい」と投げやりになって逃げ出してしまう。だからいつまで経っても、社会の中に居場所を見つけることができない。でも、実際に会うとすごいエネルギーがあったりするんですね。彼らは彼らなりに生きる意義、理由を見つけようと思って必死に生きている。

 学校が意図して自己肯定感を与えるための機会を用意する、意識して作り出すというのではだめなんです。子どもたちが自由に見つけてくることを促し、見つけてきたものを肯定してあげることが大切なんだと思いますね。

 自己肯定感というのは成功体験の積み重ねだとよく言われるのですが、社会の評価とは関係のない体験であるはずなんです。社会の評価とはつまり、学校でいい成績を取るとか、部活動で活躍するとかですよね。けど、社会的な評価と成功体験をイコールにしてしまうと、一瞬で壊れてしまうことがある。学歴が全く通じない世界ってあるわけじゃないですか。

 むしろ、犬の言葉を聞きとれたとか、鳥が何と言っているか分かったとかね。社会的な評価に縛られないところで自分の成功体験があって、そこに自信を持っている人間というのは絶対に揺るがないんです。

 

 

 

<Profile>

石井 光太( イシイ・コウタ)

1977年、東京生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。
国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動をおこなう。
著書に『物乞う仏陀』『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』など多数。
2021年に『こどもホスピスの奇跡 短い人生の「最期」をつくる』で新潮ドキュメント賞を受賞。

『ルポ 誰が国語力を殺すのか』定価:1,760円(税込)(文藝春秋)

 

写真・児玉成一

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