2021年06月10日
Category インタビュー
ラップは「しゃべるような歌」というほどの意味。
黒人の口承文芸を基礎に社会批評や風刺を散りばめる。宇多丸さんは30年以上トップランナーとして日本語でのラップを広め、発信してきた。
活動初期の日本にはヒップホップ文化やラップが定着しておらず、宇多丸さんは精力的なライブ活動によって道を切り拓いた。
ラップは1970年代、ニューヨークのブロンクスという当時はもう見捨てられたような半径数キロという極々狭い地域で生まれた、貧しい若者の文化だったんです。それが、いまや全世界の若者、ありとあらゆる地域にその文化が根付いています。日本も例外ではない。社会の格差が目に見えて広がっていくにしたがって、ラップとかヒップホップを必要とする子たちが増えたんですね。
昔だったら、不良からやくざやアウトローみたいなところにいくしかない子が、まず単純に自己表現の手段を持つことができた。これが面白いところ。「詩を書く」という、不良から一番遠いことをトライするんですよね。自分の暮らしとか、人生とか、そういったことを表現する言葉を持つことで、自己肯定感が上がって、彼らの人生や周りの人の人生を救うっていう効果があったんです。
たとえば川崎の「BAD HOP」というグループなどは、その最良の一例と言えます。全員が幼なじみで元不良。治安も経済状況も悪くて、本人たちも荒れていた。そのままいけば暴力団か何かに絡めとられていたかもしれない子たちが、武道館や横浜アリーナでライブするまでになった。自分たちでビジネスを回して、地元の若い子たちに示した。アメリカのヒップホップみたいなことが、日本でもごく自然に起こって、さらに定着するようになっていったんですね。
ラップの面白いところって、格差社会の…