2023年07月01日
Category インタビュー
みたらしさんが臨床心理学を学ぼうと思い立ったのは、身近な人の「心の病」に何もできなかった自分の無力さと不甲斐なさが悔しかったからだという。また、目の前で自死を目撃したこともあった。大学4年の12月、臨床心理の大学院を志す決意をした。
若いとき「死にたい」と感じていたみたらしさんは、臨床心理士をめざしたころ、「なぜ自殺をしてはいけないのか」という問いにぶつかった。今、相談者の悩みを聞いていると、「つらさの根源を探す体力が残っていない」と感じることが多いという。
お話を聞いていくなかで、すごく感じるのが、つらいという気持ちはわかるけれども、つらさの根源を探す体力が皆さんには残っていなかったりするんですね。
なんで自分はここまでつらいのだろうか。なんでこの環境に身を置いているのだろうか。なんでこんな社会で暮らしているんだろうか。だから私たちも支援していくなかで、対症療法的な、骨折にバンドエイドを貼っているような気持ちになることも結構あります。
ただ、「死んでしまいたい」という裏にあるのは「きちんと、生きたい」なのかもしれません。生きることに真面目すぎる人が、死を自分の逃げ場としてとらえやすいのかも。私はそのような人たちの味方でいたい。生きること以外からは逃げてもいいのです。
みたらしさんは著書の『テイラー』で、登場人物のカズラに「ぼくにとっては生きる意味を見つけることよりも、死ぬ意味を見つけるほうが、ずっと簡単なことのように感じてしまう」と言わせている。
メンタルヘルスケアの相談で、「セルフケアの仕方を教えてください」と言われるんです。でも、本当に必要なことは、年代を問わず、その人やその子にとっての依存先をいっぱい見つけてあげることなんですね。生きる理由を見つけることよりも死ぬ理由を見つけるほうが楽ですし、人に責任を課すよりも自分に責任を課したほうが楽。高度成長で、外に外に行っていたものが、だんだん時代が変化するとともに内に内に来てしまっている。
その依存先というのは、カウンセラーかもしれないし、親御さんかもしれないし、友人かもしれない。自分の大好きなゲームかもしれないし、SNSかもしれない。そういう依存先をいっぱい持っておくことが、本当はメンタルヘルスにはいいんです。でも、依存はいけないとか、セルフケアしなさいというふうに言われてしまう。私は依存先をたくさん見つけてくださいとお伝えしています。
今、東京・新宿の歌舞伎町に「トー横キッズ」と呼ばれる孤独や貧困を抱えた子どもたちが集まっている場所があるんです。私の若いころは渋谷のセンター街でした。寂しいからそこに行けば仲間がいると思った。孤独を抱えることが悪いと思われる風潮が昔も今もあると思うんですけど、孤独は決して悪いことではなくて、自分を顧みる一つの資源としてあると思うんですね。ただ、孤独にのまれてしまうというのは防がなければいけない。
レジリエンスと心理学では言いますが、「回復する力」という意味です。落ち込むことも、不安があることも、悲しむことも、別に悪いことではない。大事なのは、そこから回復していく力を養っていくことなんです。でも、その回復していく力を養うためには、いろんな依存先が必要だったりとか、それこそ自分の心の中に深く潜る体力をつけるために、日々ご飯が食べられているかとか、人と話ができているとか、そういう小さなことから大事にしていくことがすごく大事なことなんですね。
<Profile>
みたらし加奈(みたらし・かな)
1993年、東京都生まれ。大学院卒業後、総合病院の精神科に勤務したのち、ハワイへ留学。帰国後はフリーランスとしての活動をメインに行いつつ、SNSを通してメンタルヘルスの情報を発信。現在は一般社団法人国際心理支援協会所属。性被害や性的同意についての情報やメッセージを伝えるためのNPO法人『mi mosas(ミモザ)』の副理事も務める。著書に『マインドトーク あなたと私の心の話』『テイラー 声を探す物語』など。
『テイラー声をさがす物語』定価:1,980円(税込)(Hagazussa Books)
写真・児玉成一