コラム|来年死んでやるー 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2022年06月11日

Category サンガコラム終活

来年死んでやるー

老いるについて―野の花診療所の窓から  Vol.66

 介護って大変。一週間でも大変。一か月はもっと大変。一年以上の介護は、介護する方もされる方ももっともっと大変。

 86歳のシズ子さん、認知症が進み手足の拘縮も進み、体重も元気な時の半分で寝たきり。週5日デイサービス。食べ物はゼリーやプリンやとろみをつけたスープ類にすりつぶした物。世話をするのはお嫁さんとシズ子さんの旦那さん。三食を家で作るのは大変。「今はいい時代です。ドラッグストアでもネット通販でもいろんな介護食売ってます」。見せてもらった。イモ類のマッシュ、果物のスムージー、お粥、魚のすり身、鶏、豚、牛にホウレン草のすりつぶし。「誤嚥予防でゼリー歯磨きも買ってます」とお嫁さん。

 シズ子さん、決して感謝の言葉は口にしない。「寒い!」「痛い!」「オシッコ!」の三語が常套語。時々「死んでやるー」が混じる。「来年死んでやるー」もある。「今年じゃないんか」とご主人が笑う。やさしさだけでは介護は続けられない。手を出すとシズ子さん咬んだりする。「夜通し寝ないで叫んでますので」と呼ばれた。せん妄対応の水薬を処方した。すると一日中目が醒めず、呼ばれた。夕方、目が開いた。「終わりかと思いました」「騒いでも看てやります」。大量の便が出たあと意識が無くなったことも。排便失神。点滴を落として回復。「よかった、よかったー」と二人。

 排泄は介護の最重要問題。デイサービスで対処してもらうことも多いが、家だと二人で大格闘。はみ出て布団が汚れることもある。紙オムツのサイズを大きくし、寝巻きも宇宙服みたいなのに変えた。それでも事件は続く。

 先日の往診。「きのうは、絵の具みたいにニョロニョロといっぱい出て」とご主人。「デイでは出んかったんだー」とお嫁さん。便とオムツをビニール袋に入れゴミの日に出す。絵の具状に出た日がゴミの日。格闘してるとゴミ収集車が来た。慌ててお嫁さん外に出て「待ってー」と叫んだ。間一髪だった。

 毎日、あっちこっちで、皆が介護と格闘する。怒ったり笑ったり、驚いたり諦めたり。そうしてまた次の日がやってくる。

 

 

徳永 進 (医師)
1948年鳥取県生まれ。京都大学医学部卒業。鳥取赤十字病院内科部長を経て、01年、鳥取市内にホスピスケアを行う「野の花診療所」を開設。82年『死の中の笑み』で講談社ノンフィクション賞、92年、地域医療への貢献を認められ第1回若月賞を受賞。著書に、『老いるもよし』『死の文化を豊かに』『「いのち」の現場でとまどう』『看取るあなたへ』(共著)など多数。

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