2022年06月11日
Category サンガコラム
半年前、わが家は無謀にも幼稚園受験に挑んだ。その理由は、3歳になる娘の暴君ぶりに磨きがかかっていることがわかったからだ。家はもちろん、プレスクールでも授業も受けず、先生は指名制、お友達のおもちゃを壊しても謝らないどころか食ってかかる。内弁慶だと信じていたのに、外でも弁慶、ただの荒くれ者だった。
私と夫は悩んだ末、ルールや礼儀を重んじる幼稚園を受験することを決めた。第一志望の某お嬢様校。規律を守り、他者に感謝する気持ちを育んでくれると言う。私は娘を引きずって、お受験教室の門を叩いた。
まず、私たちが机の前に座ると、画用紙が配られた。お絵描きのテストだが、どうぞと言うまでクレヨンを触ってはいけないと先生が言う。じっと待っていると、突然に童謡が流れ出す。「お絵描きの前にお遊戯をするので、前方に移動してください」。言われるまま前方に出て、お遊戯をした。終わると「机に戻ってください」と言われ、戻るとすぐに「その前にお買い物をしてもらうので、隣の教室に移動してください」と。そこで、お絵描きが大好きな娘が泣き出した。教室側の意図はわかるけれど、私も苛立ってしまった。結局、お絵描きはなかった。「練習すれば、慣れますよ」と先生は言うが、本当にこんなことに慣れていいんだろうか。私は、その日のうちに第一志望をあきらめた。
その後、夫が、贅沢なほど園庭の広い幼稚園を見つけてきた。教育理念は〝遊びの中に学びを見つける〞。娘に合う気がした。けれど受験当日、娘は会場で泣き喚き、床に大の字になり面接すら拒否した。先生方は笑ってそんな娘を眺めていた。私と夫も笑うしかなかった。結果はなぜか合格。少子化の影響でもなんでもいい。現在、うちの荒くれは、パンチとキックの精度を上げ、「ボクがパパを守る」と言ってくれている。
堀江 彩木
諦聴寺坊守。
ねじめ彩木のペンネームにて、数々のテレビドラマの脚本を手掛ける。