コラム|アンチエイジング 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2023年02月16日

Category サンガコラム終活

アンチエイジング

老いるについて―野の花診療所の窓から  Vol.70

 

 「アンチエイジング」という言葉がある。アンチは「反」とか「抗」を意味する。エイジングは年を取るということ。アンチエイジングを日本語に訳すると「反老化」、「抗老化」となる。なぜアンチなんだろう。老いるって自然なことなのに、好きになれない言葉だ。

 医学界に「アンチエイジング」は広がっていて、学会もあり、高齢となっても健康で生きていくにはどうしたらいいかを考えているようだ。内科領域では心臓や肺を守り、動脈硬化や糖尿病を防ぐためにどうすればいいかを研究し、日常生活、食事療養の大切さを追求している。認知症や脳梗塞を予防する工夫を模索する。整形外科領域だと筋力減退、骨がもろくなること、変形する関節をどう予防できるかを工夫する。産婦人科領域も更年期障害と高齢出産について、眼科だと白内障や加齢性黄斑変性の対応を思案する。さらに泌尿器科領域では前立腺障害、過活動膀胱など、日常的な排尿のトラブルについて考える。とりわけ多くの人が気になるのが肌や皮膚の変化。シミもシワも気になる。さらに歯科領域へと広がり、老人全員の重大関心事の、歯周病や義歯の問題に取り組む。

 アンチエイジング医学会がテーマにしていることはどれも老人にとって現実的で大切な問題ばかり。良き事でもあるが、美容形成的な領域が関心を集め、若く見えるにはどうするか、という方向に傾き偏ることを心配する。また老人の心の領域での力の入れようが少なくはないかと危惧する。一人暮らしの老人への配慮、孤独の支え、また高齢施設で過ごす人の心理の支援をどうするか。老いを心身両面から考えなくてはならない。

 もう一つ気になることが為政者の皮算用。少子化社会では納税総額は減少する。健康高齢者を増やし納税できる人を増やさないとお金が足らない。働かない老人は敵だ。「反老人」がそこに登場することも心配。 あれだけ老いの諸問題への支援を考えているなら、「アンチ」じゃなく「ウェルカム」や「イエス」を接頭語にすれば老いをもっと肯定的に捉えることができように、と思う。

 

 

 

 

徳永 進 (医師)
1948年鳥取県生まれ。京都大学医学部卒業。鳥取赤十字病院内科部長を経て、01年、鳥取市内にホスピスケアを行う「野の花診療所」を開設。82年『死の中の笑み』で講談社ノンフィクション賞、92年、地域医療への貢献を認められ第1回若月賞を受賞。著書に、『老いるもよし』『死の文化を豊かに』『「いのち」の現場でとまどう』『看取るあなたへ』(共著)など多数。

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