2022年08月03日
Category サンガコラム終活
星を見るのは好き。子どものころは田舎に住んでたし(今も鳥取市という田舎)、日本全土の明りも少なく、田舎だからさらに少なく暗く、星は夜空にぎっしりあった。青年期も星は好きだったし後期高齢者直前となった今も、星を見るのは変わらず好き。日本に限らずどの国の人も星を見るのは好きだと思う。
人に限らず、鹿も猪も、ゴリラも雉も、蝶々もトカゲも好きなんじゃないかと思う。星は笑ってるか怒っているか、疲れているか寂しいか。理性も感性も持ち合わせず、ただ在る、ように見える。ただ在ることが、見てる側の人間や動物や植物に伝わって、見てる側は安心を得てるのだろう。
夜、川の土手を散歩しながら橋のまん中で空を眺める。星が見える日もある。このごろは金星や木星などの惑星が現れない。季節や周期によるのだろう。オリオン座は冬を代表する星座。皆に愛され、ぼくもつい友だちの一人みたいな気になっている。ところが問題が生じた。オリオン座の中央に弱く光る三星が、このごろ見づらく、空気の汚れのせいかと思ったが、他の人にははっきり見えるらしい。どうやら僕の目の老化のようだ。
シリウスは老化の目にもよく見える。「冬の三角形」とはオリオン座の左上のベテルギウス、小犬座のプロキオン、そしてこのシリウスで作られる三角形のこと。シリウスは一番明るい1等星。等級はマイナス1・5等星らしい。星の明るさにもマイナス、あるんだ。二番目に明るい星は?これは多くの人が知らない。ぼくは知らなかった。冬に水平線近くに見える星でカノープスと呼ばれる。カノープスにはいくつか別の呼び名がある。
和名に「布良星」。房総半島南端の漁村の名。そこの海上で見られる。「入定星」はある僧侶が瞑想(入定)し星になったので。地平線すれすれにちょっと出てすぐ沈むので「横着星」「道楽星」とも呼ばれる。「ちょい星」とぼくは名付けてみた。中国ではこの星を見ると長生きすると伝えられ「老人星」、と呼ぶそうだ。星にも老人って名、あるんだ。
徳永 進 (医師)
1948年鳥取県生まれ。京都大学医学部卒業。鳥取赤十字病院内科部長を経て、01年、鳥取市内にホスピスケアを行う「野の花診療所」を開設。82年『死の中の笑み』で講談社ノンフィクション賞、92年、地域医療への貢献を認められ第1回若月賞を受賞。著書に、『老いるもよし』『死の文化を豊かに』『「いのち」の現場でとまどう』『看取るあなたへ』(共著)など多数。