目をつむれば鳥の声|サンガコラム「深慮遠望」 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2022年02月10日

Category サンガコラム

目をつむれば鳥の声

深慮遠望VOL.8

 

 癖というほどではないが、最近出先などで時間が空くとすることがある。しばらく立ち止まって目をつむり耳だけを澄ます。そうすると周りから意外な音や声が聞こえてくる。

 最初たまたま、散歩コースの運動公園でそれをしてみたところ、予断と予測はみごとに外れた。都心で雑木林があるとはいえ、すぐ横を幹線道路が走っているくらいだから、自動車音とビル建設工事音以外はあまり聞こえないだろうとひそかに思っていた。ところがさにあらず。最も鮮やかに聞こえてきたのは鳥たちの鳴き声だった。

 運動場を駆け回るサッカー選手たちの声もなんだかくぐもって聞こえ、明瞭ではない。自動車音や建設音は快適でない通奏低音だ。その点、人の声(つまり言葉)として比較的聞き取りやすいのは、芝生に遊ぶ園児たちの歓声くらいか。圧倒的にクリアに聞こえるのが鳥たちの澄んだ鳴き声だった。四方八方から聞こえてくる。

 ただし鳥の種類に疎い私には、カラスとスズメの鳴き声くらいしか分からぬながら、それでも10種類ほどは互いに区別して聞くことができる。そんなわけで電車、ビル内、屋上などいろんな場所でも試してみる。もちろん電車やビル内では鳥の声は聞こえない。しかし人の声が溢れているわけでもない。最も多く聞かれるのは交通音や電子音、信号音、工事音などだ。人の声ではなく、人の作るさまざまな雑音。

 たったこれだけのことから何か結論めいたことをいうのは全くの無意味と十分承知しつつ、それでも夢想する。人の声は目立たないが、人の作る騒音は喧しい。その点、鳥の声は澄んでいる。ひょっとすると自然に負荷ばかりをかける人類に、将来取って代わるものが現れるとすれば、それは哺乳類よりも進化史的に新参の鳥類からかもしれないと。

 

 

 

稲垣真澄(フリージャーナリスト)

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