お芝居ごっこ|サンガコラム「小窓のあかり」 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2022年02月10日

Category サンガコラム

お芝居ごっこ

小窓のあかりVol.32

 

 わが家の3歳の娘はちょっとでも自分の気に入らないことがあると、どうなだめすかしてもイヤイヤ、要求が叶うまで泣き叫ぶ。これには私も夫もお手上げ、疲労困憊している。

 そこで、チャップリンの言う『寄りの悲劇、引きの喜劇』に倣い、目の前の悲劇を客観視して笑い飛ばそうと考えた。それぞれが役割を演じるお芝居ごっこだと思えば乗り切れるはずだと。

 まず、娘が鬼教官、私は鬼教官の補佐官、夫は補佐官を補佐する学生インターンとして日常を過ごしてみると、不思議なことに、食卓のぐちゃぐちゃにされたごはんも、理不尽な難題も、鬼教官だから仕方がない。こちらのイライラも寝不足の疲れも和いで、笑いさえ出てくる。娘も、私たちの芝居に乗ってくれているのか、暴君ぶりに磨きをかけてくれている。

 さらにはインターンの夫が、補佐官である私の不平不満のはけ口にもなってくれるから大助かりだった。

 ところがある時、夫が、自分がずっと下っ端の学生インターンなのは納得がいかないと言い出した。それじゃあと夫が鬼教官になったのもつかの間、娘に理不尽な真似をして嫌われるのはイヤだと言って、役を降りてしまった。そして、インターンのツラさを娘に語り出し、補佐官(私)に虐げられる悲劇のヒーローを作り上げた。すると、娘が「大丈夫、大丈夫よ」とインターンの頭を撫でた。インターンに寄り添う恋人役の登場だった。こうなると、もう誰も私たちを止められない。そんな二人に嫉妬する補佐官の不器用な恋だとか、かたや「鬼教官の本心はいかに?」となり、わが家の子育ては、悲喜こもごものお芝居ごっことリアルがぐちゃぐちゃになって続いている。

 

堀江 彩木

諦聴寺坊守。
ねじめ彩木のペンネームにて、数々のテレビドラマの脚本を手掛ける。

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