2021年02月19日

Category サンガコラム

“大きい人たち”の責任

レンズの奥の瞳

母のナリマンさんは「サラが再び歩けるようになることを願っている」と言う。

 

 イラク北部、クルド自治区。ここにはクルド人と呼ばれる人々が暮らしている。クルド人とは、トルコ、シリア、イラク、イランなどの国境に跨り暮らしている人々で、推定人口は3千万人。「国を持たない最大の民族」としても知られている。

 そんなクルド人のひとりである、サラちゃんという少女に、イラクの病院で出会った。彼女はシリア北東部に暮らしていたのだが、ある日突然、隣国のトルコ軍の侵攻に巻き込まれた。一番上の兄は即死、二番目の兄は右目に重傷を負い、サラちゃん自身は右足を吹き飛ばされ、左足の骨も粉々に砕け散り、イラクの病院に搬送された。

 「何も悪いことしてないのに……」、サラちゃんはそうつぶやいた。「ねえ、こんなことはもう止めてって、〝大きい人たち〞に伝えて」。サラちゃんの言う〝大きい人たち〞とは、現在の社会をつくりだしてきた私たち大人のことだろう。

 そこで起きている戦争を「遠くの出来事」と他人事にしてしまうのか、それとも、「私たちの責任」としてとらえるのか。サラちゃんがどちらを望んでいるかは、言うまでもないだろう。

 

 

佐藤 慧( フォトジャーナリスト/ライター)
1982年岩手県生まれ。NPO法人Dialogue for P e ople(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト、ライター。
同団体の代表。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、紛争、貧困の問題、人間の思想とその可能性を追う。言葉と写真を駆使し、国籍-人種-宗教を超えて、人と人との心の繋がりを探求する。アフリカや中東、東ティモールなどを取材。東日本大震災以降、継続的に被災地の取材も行っている。著書に『しあわせの牛乳』(ポプラ社)、同書で第二回児童文芸ノンフィクション文学賞など受賞。東京都在住。

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