季節風

　「母に対して物申したい」と神妙な面持ちの弟。出勤前に母から夕食のリクエストを訊ねられ、豚カツを所望した。快諾し弟を見送る母。弟曰く、その日の脳内の大半は豚カツで占められていたという。こんがりサクサクに揚がった衣を期待し、腹ペコで帰宅。食卓に着くと、出てきたのは豚の生姜焼きだった。生姜が無性に食べたくなったという母の独断で弟の希望は儚なく消え去った。

　「ご所望は？」と訊ねながら全く違うものを出すというのは、母の悪癖だ。「変えるのならば、最初から訊ねるな」と姉弟でツッコミを入れると、
母は腹を抱えて大笑い。つられて私たちも笑った。

　必ず玄関先まで見送ってくれる母。リクエストは無視をするけど、美味しい夕食を作ってくれる母。共に笑い合える母。いつまで一緒に過ごせるか分からないこの時間も、母も、彼女の悪癖も、とても愛おしい。