デジタル社会と憲法|サンガコラム「深慮遠望」 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2023年05月01日

Category サンガコラム

デジタル社会と憲法

深慮遠望VOL.15

 

 デジタル技術による情報通信の諸課題について、憲法学者が新聞や本などで発言するのをしばしば目にする。「情報学」と「憲法学」。かねてから、この組み合わせに意外な感じを持っていた。憲法論議といえば9条しか浮かばないせいだろう。この無知をほぐしてくれたのが、たまたま手にした新聞の憲法学者のインタビュー記事だった。

 「憲法21条の『表現の自由』に含まれる『知る権利』は、巨大IT企業やデジタル・プラットフォーマー(サービス基盤の提供者)に脅かされるリスクに常にさらされています」(憲法学者)。

 収集された膨大な個人データに基づく「おすすめ」の波がスマートフォンに押し寄せてくるのは、多くの人が経験するところだろう。加えてネット上では閲覧数に応じて広告収入が左右されるので、内容の真偽よりも、刺激的な情報が優先されやすい。このように耳目を集めるのを目的にした経済活動を「アテンション・エコノミー」というそうだ。

 かつてニュースサイトを見ていて、「トイレに行くと出た署員が帰ってこない」の見出しにつられてクリックしたら、読んだばかりの新聞の「消防署員訓練中滑落死か」というベタ記事と内容は同じだった。「そうだった、配信側からすれば、俺は閲覧数稼ぎの商品なんだ。なので見るのも無料ということか」と思った。

 「情報の受け手の『目と耳と頭』をいかに守り、言論・情報空間をどう健全化するのか」(同)。一人ひとりが主体的に情報を集めることができる意味での「知る権利」を実現するのが肝要だと、この先生は説いていた。 アテンション・エコノミーというが、つまりは「煽り」ということか。振り返れば、幼少のころから「がんばれ」「もう一歩」と煽られて生きてきた気がする。憲法はさしずめ「静かに」「落ち着け」と「寂静」を求めているのかもしれない。

 

 

 

 

 

井上 憲司(元社会部記者)

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