自己中心性|大人の寺子屋コラム 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2020年08月28日

Category 法話

自己中心性

お釈迦さまは何を覚ったの?―「不安」と仏教―④

お寺や仏像に興味あるけど、仏教の考え方となるとなぁ。宗教ってなんか近寄りがたいような感じがするけど。仏教徒!?と言われると困るけど、でも墓参りをしているし…こんなことを思ったことはありませんか?

知らなくても生活には困らないけど、その教えが人々を支え、2500年以上確かに伝えてられてきた仏教。身近に感じる仏教のギモンから「そもそも仏教とは何か」を考える超入門講座「人生にイキる仏教ー大人の寺子屋講座」。

この抄録は第3回「お釈迦さまは何を覚ったの?―「不安」と仏教―」の抄録④です。

 さて、なぜ私たちは老病死に苦しむのか、そして、なぜ不安を抱えるのでしょう。仏典には非常にシンプルなことが説かれています。

 

生に縁って、老・死あり。(『阿含経』)

 

 生まれたから、老い、病い、死んでいく。それは因縁であり、極めて当たり前のことです。私たちは十分すぎるほどそれを知り、理解しています。にもかかわらず、その老病死を自分の都合に合わないものとして、その未来を厭う。老死ありという事実を遠ざけ、厭い、自分の都合のいいものを求めていくという誤った見解が私たちの姿なのです。老病死を不安に思い、避けたいと思う心は、人の心としてはとても自然ですが、それも煩悩のはたらきによる苦しみなのです。

 

何故にわたしは、おのれの自身、生まれ老い痛み死ぬ性質のものであり、悲しみあり、けがれる性質のものでありながら、同様に生まれ老い痛み死ぬ性質のものを求め、同様に悲しみありけがれある性質のものを求めているのか。

 

 これは以前紹介したお釈迦さまが出家する際のお言葉です。人間の肉体は、亡くなった後、どんなに愛する者も朽ち果てていきます。現代では、そのような朽ち果てた姿を見ることは少ないですが、朽ち果てていく性質の肉体を持っているのです。若さや健康をいくら求めようとも、必ず老病死していくことを私たちは知っています。それでも私たちは老病死は避けたいし、若く健康で生きていたい。しかし、そのように求めることが正しいのだろうかということです。私たちは、そのようにして一体何を求めて生きているのかという問題がそこにあります。

 ここで問題となるのが、根本的な自己中心性ということです。煩悩ということの性質を表すなら自己中心性ということです。私たちは、いつでも中心に自分を置いて物事を考えている。そして「私」「私のもの」ととらわれてしまう。

 例えば、自分のご飯と言っている、そのお米や肉や魚は、あなたのものにしてくださいと思って、生きてきてくれたのでしょうか。違います。すべて私のものにしていったのです。着るもの、食べるもの、使うもの、すべてその物の本質として私のものとして存在するのではありません。しかし私たちは、私のものと考える。そして私と私のものがより良いもの、好ましいものとなり、楽が生じることを求め、悪いものを選り分けていきます。

 そこに問題が生じるのが、自分の老病死なのです。私たちにとって、身体は最も私のものと認識するものであるでしょう。その身体が、私のものであるにも関わらず、思い通りにならないものとして立ち現れてくるのです。自由に動かしていたはずの体が動かなくなり、そしてやがて動かなくなる訳です。私のものであるはずのものが、私の都合に合わなくなり、楽ではなく苦を生むものになっていくのです。事実は、老い、病しているのが自分であり、いつでもそれを縁として私という意識が生じているのです。その自分しかいないし、誰も代わることができない。しかし、そこに生じる意識は、意識の方が中心で、身体さえも私のものとして認識し、自分の都合に合わないとその身体を厭い、苦と認識してしまうのです。そのように私たちは、我執にいつでも振り回されているのです。そこに根本的な問題があります。

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鶴見晃(つるみ・あきら)氏/同朋大学准教授

1971年静岡県生まれ。大谷大学大学院博士後期課程修了。真宗大谷派(東本願寺)教学研究所所員を経て、2020年4月より現職。共著、論文に『書いて学ぶ親鸞のことば 正信偈』『書いて学ぶ親鸞のことば 和讃』(東本願寺出版)、『教如上人と東本願寺創立―その歴史的意味について―』『親鸞の名のり「善信」坊号説をめぐって』『親鸞の名のり(続)「善信」への改名と「名の字」-』など多数。

 

 

写真/児玉成一

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