「わたしの1票」|サンガコラム「世界分断の手当て」 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2024年05月01日

Category サンガコラム

「わたしの1票」

世界分断の手当て vol.9

台湾総統選の選挙戦最終日。新北市板橋第二運動場で開かれた候補者の集会。主催者によると、22万人が訪れた。

 日本の友人や同僚から「スズさん」と呼ばれ親しまれている台湾出身の29歳、ス・ズシェエンさん。台湾総統選の投票のため仕事を休んで故郷に戻ると言うので、私も日本から同行させてもらった。「どうして仕事を休んでまで投票を?」と質問すると「あたりまえじゃないですか」と返ってきた。スズさんは私がラジオ局で司会を担当している番組のスタッフでもある。生放送前、仲間の放送作家が雑談混じりで「スズさん誰に投票するの?」と尋ねた。「そんな大切なこと言わないですよ」と両手を重ねて大きく左右に振った。

台湾総統選の投票率は7割を超える。20代では9割という推計もあるほど関心が強い。令和3年の日本の衆院選は全体が5割、20代は3割台だった。選挙戦最終日の集会場をスズさんと共に訪れた。会場は20万人以上の人々で埋め尽くされ運動場の中に入れなかった私たちは外に設置された巨大モニターの前で演説に耳を傾けた。「わたしたちの1票が未来をつくるのです」。候補者の訴えに「そうだ!」と拳を突き上げ涙を流す人もいた。

 

今、世界の民主主義は後退している。世界各国で汚職が広がり、権力者が利益を貪(むざぼ)る実態を1月に発表された「世界汚職度ランキング」が明らかにした。不信感は諦めに変わり、民主主義の停滞を生む。緊張なき民主制度は力あるものにとっては都合がいい。それで良いのか。台湾の選挙が世界をこうして鼓舞してくれる。投票所でスズさんの1票を見守った。「どうだった?」と聞くと「少し震えました。今もドキドキしています。これで私の未来が変わるから」と。

 

堀 潤(ジャーナリスト・キャスター)

1977年、兵庫県生まれ。2001年にNHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター「Biz スポ」キャスター等、報道番組を担当。2012年、市民ニュースサイト「8bit News」を立ち上げ、2013年4月1日付でNHKを退局。現在は、TOKYO MX「堀潤モーニングFLAG」のMCをはじめ、AbemaTV「AbemaPrime」、読売テレビ「ウェークアップ」などに出演し、国内外の取材や執筆など多岐に渡り活動中。2020年、自身で監督、出演、制作を行った映画「わたしは分断を許さない」を公開。

最新記事
関連記事

記事一覧を見る

カテゴリ一覧
タグ一覧
  • twitter
  • Facebook
  • Line
  • はてなブックマーク
  • Pocket