インタビュー
サワコ的 介護の心得
『聞く力』が脅威のベストセラーになった。『サワコの朝』はじめ『ビートたけしのTVタックル』など、軽妙な佐和子さんの話術が光る。昨年はテレビドラマでも熱演した。徳川夢声、森繁久彌、小沢昭一に続く、明治村の4代目の村長でもある。
3年前、父である作家の阿川弘之さんが他界した。四十九日が過ぎたころ、出版社から父について書かないかと依頼された。「父がどれほど無茶苦茶な人であったか、周囲がどれほどひどい目にあわされたか」、佐和子さんは『強父論』を書いた。書き終えて、作家の娘としての宿命をはたしたような気がした。「あなたのお父さんは私の理想です」とビートたけし氏が絶賛した。父のあとは母の介護である。
親の介護は子どもがしなければいけないとか、しないと人に面目が立たないとか、日本人はずいぶん駄目になりつつあっても、まだ倫理感みたいなものは残っていますね。だから、よし、頑張って仕事を辞めて介護に専念しようと思うと、親子ともどもこわれてしまって、殺しちゃったり、いろんなところでぶつかったり、やけを起こしたり、頭にきたりすることばかりの現場が介護ですね。全部そろっています。兄弟喧嘩もするし、お金に絡んだことも起こるし、親子での今まで鬱屈していたものが全部爆発することもある。

だから、完璧にやろうと思ったら介護する側がつぶれてしまう。まわりを見ていても、自分がやってもそう思いました。もの忘れが始まった母やわがままを言う父に、どうすれば優しい気持ちになれるのか。そうだ、ずるをしようと思いついたんです。そして後ろめたさを持とうと思ったんです。父から預かっていたお金で、こっそり買い物をして、ざまあみろ、使ってやったぞと。そうすると、次に父に会ったとき、それぐらいのわがままは聞きますよ、みたいな余裕が出てくるんですね。
母を介護するときに、お昼ごろ来てほしいという連絡があったけれども、私は仕事が忙しくて行けないのとか言って、夕方に行って、くたくただと言ったら、「あんた疲れてんの、ちょっと横になっていなさい。ご飯はいいわよ、私なんとかするから」と言う。実は、仕事で疲れたんじゃなくて、ゴルフで疲れた。悪いなと思って、「ううん、つくるつくる、私がつくる」という気持ちになるんですね。

だから、肉体的に疲れるより、「ありがとう」とか、こちらはずるをしているのに「かわいそうに」とか言われると、優しくしなきゃという気持ちが湧いてくるのが分かったので、完璧にやろうなんて思わないし、腹が立ったら発散させるんですね。
戦争を体験した親たちはもうほとんど生きていませんけれども、昭和に、これは要らないと思って捨てちゃったもので大切なものがいっぱいあったんじゃないかと思うんですね。床の間とか、ご先祖さまとか、何かに対して敬意を表する。権利だけじゃなく、そこは分相応とかね。時間と情報に追い立てられる今の時代だからこそ、一度捨ててしまった謙虚な心を取り戻すチャンスではないかと思います。
Information
![]() |
![]() |
|
『ことことこーこ』 |
『看る力 アガワ流介護入門』 (文春新書)780円(税別) |
あがわ・さわこ 1953年、東京都生まれ。慶応義塾大学文学部西洋史学科卒。83年から『情報デスクToday』のアシスタント、89年から『筑紫哲也NEWS23』のキャスターに。98年から『ビートたけしのTVタックル』、11年から『サワコの朝』にレギュラー出演。99年、檀ふみ氏との往復エッセー『ああ言えばこう食う』により講談社エッセイ賞を受賞。12年、『聞く力』が年間ベストセラー第1位に。近著に『叱られる力』『看る力』『ことことこーこ』など。
撮影:児玉成一

