2021年04月09日

Category サンガコラム

一年中「8月ジャーナリズム」をする理由

深慮遠望VOL.3

 読者の皆さんに想像してもらいたいことがある。突然、父親と母親ら保護者がいなくなったら、子どもがどうなるかを。76年前、米軍の無差別爆撃により日本各地で膨大な子どもが孤児となった。

 敗戦後、大人でさえ生きていくのが大変だった時代だ。孤児が生きていくためにどれほど苦労したか。想像すると胸が痛む。日本政府は孤児救済の有効な政策をとらず、「自力で生きて」ということだった。

 新聞やテレビは毎年8月15日前後、盛んに戦争に関する報道をする。他の季節はさほどでもなく、「8月ジャーナリズム」と揶揄されることがある。私は戦争報道を一年中行っていて、「常夏記者」を自称している。

 「8月ジャーナリズム」には一つの形がある。戦争体験者に取材し、「戦争だけはしてはならない」などと結ぶものだ。私の報道はそうではなく、「戦争は未完だ」というものだ。戦闘は1945年に終わった。だが戦争被害で今も苦しんでいる人がたくさんいる。「戦争孤児」はその典型だ。私は10年近く当事者たちを取材している。当初は口が重かった。「生きていくために盗みをした」、「引き取られた親戚に虐待された」、「学校で差別され、いじめられた」などのつらい体験、心に深く残る傷を他人に話したくないのは人情だろう。

 しかし人生のゴールが見えてきたためか、話してくれる人たちがいる。私はその証言を歴史に記録しているのだ。空襲以外にも戦争被害者はたくさんいる。だから私は「常夏報道」を続けてゆく。戦争でどれだけ多くの人がどれだけ長く苦しむかを伝えること。それが、新しい戦争を防ぐ力になると信じている。

 

 

 

栗原俊雄(毎日新聞専門記者)

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