物心|サンガコラム「小窓のあかり」 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2021年04月09日

Category サンガコラム

物心(ものごころ)

小窓のあかりVol.27

 夏のある朝、6歳になる娘が「明後日は幼稚園でプールなんだよね」と私に言ってきました。私はハッとしました。以前、ある先生から「子どもが『明後日』を理解できるようになったら、記憶が定着してきている、つまり物心がついた証拠なんです」と、教えてもらったことがあったからです。一つ寝た自分を想像し、そこからさらにもう一つ寝た自分を想像する。これはもう自分を客観的に見る視点がないと分かりません。「世界」と「自分」をいったん切り離し、そこから自分を見る視点がなければ、「明後日」は絶対に分からないのです。彼女の中で、「世界」と「自分」が、数字的、言語的な概念を介して、はっきり分かれ始めてきた。それが「物心がつく」ということなのかもしれません。

 

 思えば私は一体いつから〈私〉になったのでしょうか。明後日の予定も、昨日の後悔も引きずることなく、全身全霊で「いま」を生きていたあの頃を、私はもう思い出せません。あれは彼女にとって、苦しくも愛おしい、人生の旅が始まった瞬間だったのかもしれないな。喜びと、少しの寂しさを覚えながら、駆けていく娘を見送っていました。

 

花園 一実(東京都台東区・圓照寺)

1 9 8 2 年生まれ。圓照寺(東京・台東区)副住職。二児の父親。

花園さんには、これから執筆者の一人として定期的に連載いただきます。

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