2020年04月08日
Category サンガコラム
小窓のあかりVol.21
突然夫が「ハンバーグが食べたい」と言った。そういえば、結婚以来一度もハンバーグを作ったことがなかった。大好物であるにもかかわらずだ。しかし、料理下手の私には生姜焼きが精いっぱいで、夫にハンバーグを作るのはハードルが高過ぎた。
そこで、私たちは電車を乗り継ぎ、口コミで評判のハンバーグ屋に行った。粗びきミンチのゴロゴロハンバーグに、手間ひまかけたデミグラス・ソース。たしかに美味しい。でも、何かが違う。それから堰を切ったように、美味しいハンバーグを求めて食べ歩いたが、やはり何かが違う。そして、ある時気がついた。私にとって美味しいハンバーグは、母の手作りハンバーグなのだと。合い挽肉にタマネギ、牛乳、パン粉、卵、ナツメグ。ソースは、赤ワイン、ケチャップにウスターソース。さして凝ったものは入っていなかったはず。
すると、夫が言った。「そんなに食べたいなら、お義母さんに作ってもらえば?」。どうしてもっと早く気づかなかったのだろう。実家の母に話すと、「もう何年も作ってないから、どうかしら」と言いながらも作ってくれた。ところが、出来上がった母のハンバーグは、私の全く知らない味になっていた。もう二度とあの母のハンバーグが食べられないのかと思うと、無性に悲しくなって、年老いた母に腹が立ち、「もういい!」と、その場で私が作り直した。すると、不思議なことに完成した私のハンバーグは、母の味そのものだった。私は自分のハンバーグを食べながら、いつか、私の娘が「お母さんのハンバーグじゃなきゃイヤダ」と言ってくれたその時に、やっと「…