2022年10月05日
Category サンガコラム
曽我量深
『歎異抄聴記』
「パパ、今日いっしょに寝よう」。
もう、3、4年前のことでしょうか。仕事から帰り、自宅の玄関を開けると、待っていましたとばかりに、長男が走ってきました。そして、私に向かって言ったのが「パパ、今日いっしょに寝よう」でした。当時、彼は3歳。幼稚園に通っていました。その彼が、生まれて初めて、父親である私と寝たいと言ってきたのです。
初めてのことで驚きましたが、とてもうれしかったことを今でも覚えています。しかし、恥ずかしながら、何か裏があるのではないかと疑いました。欲しいものがあるのか、家族が言わせたのか、幼稚園で先生から言われたのか…。恐る恐る妻に聞くと、幼稚園から帰って、自分から「パパといっしょに寝る」と言ったということでした。
それまでは、寝る時は必ず「ママ」といっしょ。私がいっしょに寝ようとすると、「パパはあっちでテレビ見てていいよ」と言われていました。また、都合が悪いことがあると、頼りにするのはいつも「ママ」。私が近づくと、いつも「あっち行って」。その姿を見ては、「都合の良し悪しで行動して…」と、幼い彼を憎らしく思っていました。
そのような日常の中で言われた一言が、「パパ、今日いっしょに寝よう」でした。それまで憎らしく思っていた彼が、たった一言で愛おしく思えてきたのです。
しかし、同時にハッとさせられました。彼のことを「都合の良し悪しで行動して」と思っていましたが、都合の良し悪しで行動していたのは他ならない私自身だったのです。自分の思い通りになればかわいい、思い通りにならないと憎い。たった一言で一喜一憂している自分の姿に気づかされたことでした。
その夜、彼の希望通り、いっしょに寝ることになりました。手をつなぎ、ウキウキしながら寝室へ。ふとんに入り、「初めていっしょに寝るね、おやすみ」と言って、目をつむりました。 5分くらい経ったころでしょうか。彼が私を呼びました。そして、こう言いました。 「パパといっしょに寝ると緊張するから、今日はやめとく」。
この一言で、彼に対する愛おしい気持ちが一瞬で消えてしまいました。
「今日はやめとく」と言われたあの日以来、一度も「パパ、今日いっしょに寝よう」と言われていません。また言ってくれる日が来るのでしょうか。その彼は、4月から小学校1年生になりました。今では、虫取りとサッカーをしたい時だけ「パパ、いっしょに行こう」と言ってくれます。
青木 玲(あおき れい)
九州大谷短期大学 准教授