2022年10月05日
Category インタビュー
「人新世」とは、時代区分を表す地質学の言葉である。人類が地球の地質や生態系に与えた影響に注目してつけられた名前を、斎藤さんは「人類が地球を破壊しつくす時代」ととらえる。はたして人類は生き延びることができるのだろうか。
異常気象、パンデミック、海洋プラスチックごみ問題……。環境危機に立ち向かい、経済成長を抑制することができるのか。
最新の地層を取り出してみると、東京なんかコンクリートなわけですね。都会の生活をしていればたくさんのゴミが出て、海洋プラスチック汚染が問題になってます。そして、人類の排出した二酸化炭素が気候変動を引き起こしている。地球全体が人類の経済活動の痕跡によって覆われるような時代になっているということが、「人新世」ということなんです。
私たちは今、新型コロナウイルスに翻弄されていますけれども、パンデミックだけではなくて、ヨーロッパでは干ばつが深刻になって山火事が起きたり、日本でも豪雨や酷暑で人が亡くなったりしている。人間が自然のあり方、地球のあり方を根本から変えてしまった結果、人類がもはやコントロールできないような、自然の力によって振り回されるような時代に突入してしまっているのです。
こういう「人新世」という状況の背景には、資本主義というものが際限のない経済成長を求めて市場を拡張し、資源を開発したことがあるんですね。けれども、地球というのはあくまで有限なわけです。私たちは、これからも経済成長を求め続けるべきなのでしょうか。地球を次世代に残すためには、成長に依存しない仕組みを作る必要があると思います。
私たちは今、大量消費の資本主義社会から「脱成長」への転換点に立っているのだと斎藤さんは言う。「人新世」という時代の中で、私たちはどのように生きていくべきなのかを改めて考える必要がある。
私が言っている「脱成長」というのは、仏教的な考えで言えば「足るを知る」という、非常に単純な話なんです。資本主義のもと、人間の欲はいつまでたっても満たされません。何かモノを買っても、また新しいモノが出るし、SNSを開けば、もっといいモノを持っている人がいる。そういう競争を続けていても、結局幸せになれないし、自然環境もぼろぼろになってしまう。であるならば、私たちの社会はすでに十分豊かなんじゃないか、ということに発想を転換して、足るを知るような社会に変えていくこと。それが、持続可能な社会をつくる道となり、同時に人間にとっても幸せな社会をつくることに繋がるのではないでしょうか。
Z世代と言われる若い世代に、気候危機に警鐘を鳴らすため、国会議事堂に一人で座り込んだスウェーデンのグレタ・トゥーンベリのような人が出てきました。なぜ彼女の主張に多くの若者たちが同意するかというと、今の状況に対する不安とか怒りがあるわけです。私たち大人が何もしなかったことのツケを押し付けられることへの不安や絶望や怒りがある。私たち大人は、彼らの怒りにきちんと向き合って、未来を選択しなければなりません。
<Profile>
斎藤 幸平( サイトウ・コウヘイ)
1984年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。
ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。専門は経済思想、社会思想。
邦訳『大洪水の前に』によって、ドイッチャー記念賞を歴代最年少で受賞。
『人新世の「資本論」』がベストセラーに。
『人新世の「資本論」』定価:1,122円(税込)(集英社新書)
写真・児玉成一