2021年10月07日
Category 終活
終活にまつわるテーマを取り上げながら、各専門分野の先生がそのテーマのポイントをわかりやすく解説する「終活コラム」です。
今回のテーマは「遺産分割」です。財産を分割するには、お話し合いで決まることもあれば、お話し合いがまとまらず、裁判所で決まることもあります。
そこで今回は、弁護士法人ダーウィン法律事務所・代表弁護士の荒川香遥先生から「遺産分割の手続の種類について」をお教えいただきます。
故人の遺産があり、相続人が複数人いる場合には、財産をどのように分割するかを決めなければなりません。相続人同士のお話し合いで決まることもあれば、お話し合いがまとまらず、裁判所を通して決まることもあります。本コラムでは、遺産分割の手続について解説いたします。
目次
1 遺産分割手続の種類
2 遺言による分割
3 協議による分割
4 調停による分割
5 審判による分割
6 遺産分割協議前に裁判等を行う場合
7 さいごに
遺産分割を行うためには、まずは、誰が相続人であるかという相続人の特定を行う必要があります。この特定のためには、故人が生まれた日付まで戸籍謄本を遡り、兄弟や子供の有無を確認することになります。戸籍謄本の入手は郵送で行う事が多く、通常、数ヶ月程度かかることが一般的です。外国籍の場合にはさらに現地の大使館等での確認が必要となり、翻訳に時間がかかることもあり、さらに期間がかかることもあります。
相続人の特定と並行して、どのような遺産があるかの調査も行うことなります。具体的には、不動産、預貯金、株式などの資産について調査することとなります。
こうして、相続人の特定と遺産の範囲が特定できて、初めて遺産分割手続が可能となります。遺産を分割する方法は、遺言書がある場合には、遺言書に従って分割がされます。遺言書がない場合には、相続人同士で協議を行い分割します。お話し合いでの協議がつかない場合には、裁判所を通して決まることになります。
以下、分割の手続ごとに解説いたします。
遺言書がある場合には、遺言書に書かれた内容が、故人の最後の意思のため、その意思に基づいて遺産が分割されることになります。
もっとも、遺言が一部の相続人のみに財産を承継する内容になっている場合など、他の相続人に不利益に働く場合があります。この場合、相続人には、「遺留分」といって、最低限取得できる割合が決まっていることがあります(すべての相続人に認められるわけではないです。詳しくは、「遺留分」のコラムをご覧ください)。遺留分を侵害された相続人は、財産を取得した他の相続人に対して最低限取得できる権利に相当する金銭の支払いを請求することができます。
また、遺言書があっても、相続人全員が同意すれば、遺言書に記載された分割方法とは異なる分割を行うこともできます。
遺言による分割の場合、特に、自筆証書遺言の場合には、内容が不明瞭であったり、そもそも作成時に認知症を発症して正常な意思で作成された書類であるかどうか争われることもあります。
遺言書の所在を調査したが遺言書が見当たらない場合、また、遺言書があるが相続人間で別途協議する場合には、協議によって分割を行うことになります。
お話し合いですので、どのように財産を分けるのも自由ですし、仮に遺留分を侵害する内容での協議であっても、侵害される本人が承諾していればそのような合意も有効です。
協議が成立する場合には、協議内容を文章にして遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、関係する相続人全員の署名と実印での押印をもらうことになり、印鑑証明書も提出頂くことが多いです。この理由として、遺産分割協議書で財産を引き出したり不動産を処分したりする際には、実印と印鑑証明書の添付が要求されることがあるためです。
協議が整わない場合や疎遠な相続人の場合にはそもそも協議に参加してくれない場合には、中立な裁判所を通して協議を行うことができます。この手続を「調停」といいます。調停はあくまで裁判所でのお話し合いの手続のため、強制的に分割内容を決めることはできません(審判という手続では、裁判所の判断で一方的に分割内容が決まります)。
(1)調停申立に必要な書類
(2)調停申立の費用
(3)調停の流れ
調停と審判は、ともに、裁判所を利用する手続ですが、調停は、あくまで協議を前提として全員の合意の上で分割内容を定める手続です。一方で、話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には自動的に「審判手続」が開始され、裁判官が、遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して、審判をすることになります。
したがって、柔軟な内容での解決とならないこともあります。
遺産分割協議は、遺言書の効力や、相続人の範囲や財産の範囲に争いがないことを前提としています。
そのため、
・遺言書の効力を争いたい
・相続人の地位の不存在を認めさせたい
・遺産の範囲に問題がある
場合には、遺産分割協議を行うためにこれらの民事裁判や調停手続を行う必要があります。
【コラム 相続人の地位の不存在となるケース】
相続人の資格を喪失する事情として、相続欠格事由に該当するケースや、養子縁組や婚姻の無効に該当するケースがあります。
相続欠格事由とは、以下のとおり、故人に対する悪意ある嫌がらせや遺言書の破棄などを行った場合に該当することになります。
養子縁組や婚姻の無効の場合には相続対策で形式上養子をとった場合など家族関係を構成する意思がない場合に無効と判断される可能性があります。
民法891条
以上、遺産分割手続について解説いたしました。
【弁護士は何をする人?】
遺産分割手続のすべての段階で、相続人の特定のために戸籍謄本をとりよせたり、遺産の範囲を確定するために金融機関等に情報開示を求めたりするところから、代理人として他の相続人と交渉を重ねたり、協議が成立する場合には遺産分割協議書を作成もいたします。
さらに、遺言の効力を否定したい場合(遺言無効)に無効の裁判を申し立てたり、遺産分割調停や審判の代理人として裁判所に出頭もいたします。
荒川 香遥 氏(弁護士法人ダーウィン法律事務所 代表弁護士)
寺院の住職を務める父を持ち、本人も9歳の時に東本願寺で得度式を受けました。司法試験合格後は、全国的に取り扱う弁護士が少ない宗教法人法務にも注力しており、宗教法制研究会に所属し、執筆活動などを通じて寺院における法務の重要性について発信を行っております。
【弁護士法人ダーウィン法律事務所】
住所:〒160-0004 東京都新宿区四谷3-1-9 須賀ビル5階
電話:03-3354-5330
公式サイト:https://darwin-law.jp/