空しく過ぎる|大人の寺子屋コラム 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2020年07月27日

Category 法話

空しく過ぎる

お釈迦さまはどんな人だったの?-「生きがい」と仏教⑤

お寺や仏像に興味あるけど、仏教の考え方となるとなぁ。宗教ってなんか近寄りがたいような感じがするけど。仏教徒!?と言われると困るけど、でも墓参りをしているし…こんなことを思ったことはありませんか?

知らなくても生活には困らないけど、その教えが人々を支え、2500年以上確かに伝えてられてきた仏教。身近に感じる仏教のギモンから「そもそも仏教とは何か」を考える超入門講座「人生にイキる仏教ー大人の寺子屋講座」。

この抄録は第2回「「お釈迦さまはどんな人だったの?-『生きがい』と仏教」」の抄録⑤です。

「生きがい」ということをお釈迦さまの出家から考えましたが、今度は浄土真宗の親鸞聖人が大切にされた言葉から考えてみます。

仏の本願力(ほんがんりき)を観(かん)ずるに、遇(もうお)うて空(むな)しく過(す)ぐる者なし。よく速やかに功徳大宝海(くどくだいほうかい)を満足せしむ。

『浄土論』(『真宗聖典』137頁)

 

これは、天親というインドの方のお言葉です。つまり、仏さまにお遇いするならば、この人生を空しく過ごす者はいない。速やかに、素晴らしい宝の海のような功徳を私たちの人生の上に満足してくださるのである、というような意味です。親鸞聖人はその言葉を受けて、『和讃』という書物にこう書きます。

本願力にあいぬれば むなしく過ぐるひとぞなし      

『高僧和讃』(『真宗聖典』490頁)

親鸞聖人は、このように「仏さまにお遇いするならば、人生をむなしく過ごす人はいない」とおっしゃっておられます。

 これらの言葉には老病死という問題は出ていませんが、仏さまにお遇いしたら老病死はなくなるのかといえば、もちろんそんなことはありません。親鸞聖人は90歳で亡くなられましたが、最晩年には、もう目も見えないし、ものも忘れるようになってきたと、弟子たちに向けた手紙でおっしゃっておられます。ですから、親鸞聖人ももちろん老い、病いし、亡くなっていきました。仏さまに遇うと老い、病い、死がなくなって満足するという話ではなくて、老いと病と死というその人生が空しいものではなくなるということです。

 

 私たちは、自分を選んで生まれてくることはできません。誰もが自分として生まれ、自分を生きるという、人生の課題を抱えているわけです。自分に対するコンプレックスを持っていても、どれだけ恨んでも私は私でしかない。誰かと代わることのできない私です。だから、生老病死というのは、誰とも代わることのできない、生まれ、生き、死んでいく私たちの根本的な苦しみです。

 仏教には四苦八苦という言葉がありますが、「生・老・病・死」の四苦に、また四つ「苦」が加わって八苦となります。愛する人と別れる苦しみである「愛別離苦(あいべつりく)」。嫌な人と会わないといけない苦しみである「怨憎会苦(おんぞうえく)」。いろんなものを求めても得られない苦しみである「求不得苦(ぐふとっく)」。そして、生存全体が苦しいという「五陰盛苦(ごうんじょうく)」があります。生きていくことの中で、人との関係がうまくいかなかったり、ああなりたい、これが欲しいと思っていてもそれがうまくいかない。その人生の全体が苦しいのだということを表しているのが四苦八苦です。私たちが老病死や人生というものをそのように苦と認識する。仏教は、そこを問題とします。

 なぜ目覚めた人が仏なのかというと、その認識の誤りに目覚めたのです。認識の誤りは煩悩があるから起こります。私たちが本来苦として受け止めるべきでないものを、煩悩によって苦として受け止めているというのが仏教の考えです。老病死を正しく受け止め、その老病死する人生が空しいものにならないということが、仏教の意味なのです。

 決して避けることのできない人生を、どのようにしたら空しい人生として送らないで済むのか。お釈迦さまが覚った内容は、老病死に象徴される苦しみの人生をどう越えるのかを教えようとしているということなのです。

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鶴見晃(つるみ・あきら)氏/同朋大学准教授

1971年静岡県生まれ。大谷大学大学院博士後期課程修了。真宗大谷派(東本願寺)教学研究所所員を経て、2020年4月より現職。共著、論文に『書いて学ぶ親鸞のことば 正信偈』『書いて学ぶ親鸞のことば 和讃』(東本願寺出版)、『教如上人と東本願寺創立―その歴史的意味について―』『親鸞の名のり「善信」坊号説をめぐって』『親鸞の名のり(続)「善信」への改名と「名の字」-』など多数。

 

 

写真/児玉成一

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