相続の流れと手続き|終活コラム 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2021年08月04日

Category 終活

相続の流れと手続き

 終活にまつわるテーマを取り上げながら、各専門分野の先生がそのテーマのポイントをわかりやすく解説する「終活コラム」です。

 今回のテーマは「相続」です。「相続」は、財産を引き継いでいただくための大切な手続きですが、その方法は不慣れで分かりにくいことが実情ではないでしょうか。また、「争続」という言葉も現れるように、親族を巻き込んで感情的な対立になるケースもあるようです。

 そのような「相続」について、今回は弁護士法人ダーウィン法律事務所・代表弁護士の荒川香遥先生から「相続の流れと手続き」をお教えいただきます。

 大切な方を失った悲しみの中、故人の財産を整理しなければなりません。

 具体的には、相続の対象となる財産の特定や相続人を特定するために戸籍謄本の収集を行うことになります。私の考えとして、グリーフケア(大切な方を失った方の精神的肉体的回復のためのケア)の一環として、「何らかの作業で気を紛らわす」ということは重要であると思っております。

 もっとも、相続手続きは、不慣れな手続きなどで一般の方には煩雑な手続きであることが多く、また、金融機関が複数ある場合にはそれぞれ異なった対応が必要となることも多く、骨が折れる作業です。

 本コラムでは、終活の一環として、相続の流れと手続きについて解説いたします。

相続の流れ

 相続とは、故人の財産を次の世代に遺すための手続きです。

 この手続きにおいて、故人は自らの死後に財産の分配を決めることができます。そのためには遺言書の作成が必要です。一方で、遺言書が存在しない場合には、法律で決められた人物が法律で決められた割合で相続(これを法律で定められた相続という意味で「法定相続」といいます。)をすることになります。

 いずれにしましても、大きな枠組みでは下記3点の視点で手続きや調査を行うこととなります。

  ① 遺言書の有無の調査

  ② 相続人の調査

  ③ 相続財産の調査

 そして、調査を終えて、その相続財産をどのように分配するかという手続きがあります。

 以下、それぞれについてご説明いたします。

①遺言書の有無の調査

 相続とは、故人の財産を次の世代に遺すための手続きですので、故人が自ら、どの財産を誰に受け渡すかは原則として自由に決めることができます。例えば、施設でお世話になったということで施設に対して遺産の一部を寄付の趣旨で相続をさせることも可能です。

 このような場合、多く用いられる書面が、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。自筆証書遺言や公正証書遺言については、自宅に保管されていないか調査するとともに、公正証書遺言は公証役場に対して、自筆証書遺言については法務局に対して、それぞれ、遺言書保管の有無を調査することも必要です。

 遺言書の詳細については、次回以降のコラムにてお話しいたします。

②相続人の調査

 法律で、相続人の地位になれる人物の順番が定められております。例えば、妻と子がいる人が亡くなった場合には、妻と子供が相続人の地位になります。仮に、妻も子もいない場合には、自分の両親に、両親が死亡している場合には兄弟にという具合で、相続人の地位は移り変わることになります。

 仮に、遺言書で、相続人以外の第三者に全ての財産を渡してしまう内容が記載されていても、法律で定められた一部の相続人には、相続財産の一部を取得できる権利があります。これを「遺留分」といいます。

 したがって、相続人を特定するため、故人の戸籍謄本を死亡時から出生まで全て遡って調査を行う必要があります。具体的には本籍地に対して戸籍謄本、除籍謄本及び原戸籍謄本の謄写申請を行うこととなります。郵送での手続きも可能です。申請用紙などは、各自治体のホームページで案内がされていることが多いです。

 

【コラム】

 戸籍を調査すると、全然知らない異母兄弟が出てくることや、借金対策で養子になったり養子をとったりするなど、戸籍を辿ることで会ったこともない相続人が出現することもあります。

③相続財産の調査

 どのような財産があるかの調査も並行して進めることになります。

 この財産の範囲には、借金などのマイナスの資産も含みます。

 家財道具、宝石などの目に見えやすいものは家の整理の中から見つかることが多いですが、権利関係など目には見えないモノは、あたりをつけて調査することになります。

(1)不動産の調査

 不動産については、住んでいる物件以外にもバブル時代のリゾートマンション投資の残り(ほとんど資産価値はないことが多いです)や原野商法でだまされて購入してしまった不動産などが見つかることもあります。具体的には、不動産の固定資産税の納付書の控えから不動産を特定し、法務局で不動産登記事項証明書(昔の表現でいう「不動産登記簿」です。)を入手いたします。また、納税額やおおよその資産価値を把握するためには、不動産所在の市区町村に対して「名寄せ帳」の開示を行うこともあります。

(2)預貯金の調査

 通帳やキャッシュカードなどから取引先の金融機関を調査することになります。そのほか、どこにあるかわからない場合には、近くの金融機関に遺産調査のため、故人の口座の有無の調査を行うことができますので、故人自宅近くの信用金庫や地方銀行などに対して、調査を行うことがあります。

(3)通帳の履歴からわかる資産の調査

 通帳が見つかる場合には、配当金などが振り込まれていれば株式などの投資信託があることが予想できます。そのため、預金通帳の項目を確認することも必要な調査の一環です。

遺産分割協議手続き

 以上の調査を終え、相続人の特定と相続財産の特定が出来た場合、遺言書があれば、遺言書に従ってその内容を実現しますし、遺言書がない場合には、全ての相続人の承諾を得て、相続財産の整理を行うことができます。この整理手続きを「遺産分割協議」といいます。協議書作成には、全相続人の署名捺印と印鑑登録証明書を添える必要があり、この点も手続きが煩雑です。

 この整理手続きを巡って、トラブルとなることが多いのが実態です。

相続放棄について

 相続は、借金などのマイナスの財産も承継されてしまいますので、借金の方が大きい場合には、そのようなマイナスの財産を放棄することができます。これを「相続放棄」といいます。相続放棄は、相続を知ってから「3ヶ月」という短い期間内に家庭裁判所に申し立てる必要がありますので、相続手続きではこの3ヶ月を経過しないように気をつける必要があります。もっとも、相続してからある程度期間が経ってから借金が見つかることもあり、裁判所も、絶対に3ヶ月を超えたら放棄を認めないという運用をしているわけではないので、このような場合には専門家へのご相談をお勧めいたします。

 

【コラム 相続放棄しても責任を負うことがある。】

 相続放棄をしたからといって全ての責任を免れるわけではないのです。例えば、郊外で資産性の無い土地建物が相続財産である場合、解体費用や売り手が見つからないからと相続放棄をしたとしても、建物の倒壊などで第三者に損害を与えた場合には責任を負うことになります。これは、相続財産として適切に管理しなければならない義務は、相続放棄後であっても負うからです。

 令和3年4月1日の法改正により、このような資産性の無い不動産について国に渡す制度も整備はされていますが、一般的に利用できるような制度ではなく、このような不要な不動産の処分については社会問題となっております。

お墓の相続

 お墓、遺骨や位牌は相続財産としては扱われません。

 法律は、これらを「祭祀財産」として相続財産と区別して規定しています。

 祭祀財産は、相続のような経済的財産と異なり、分割が難しく(例えば、お金なら1円単位で分けられますが、お墓は分けられませんよね?)、また宗教感情も伴うために、異なった定め方をしております。具体的には、誰に継がせるか故人の遺志がある場合にはその遺志を尊重します。この遺志は遺言書のように法律で定められた書式はないので、ビデオレターや、テーブルのメモ書きでも有効です。このような故人の遺志が不明の場合には、家族や地縁社会での慣習を頼りにします。それでも決まらない場合には、誰が承継するべきにふさわしい人物であるかについて裁判所に審判の申し立てを実施することになります。

 遺産分割協議でトラブルとなる場合、故人の遺骨や故人の法要を巡ってトラブルになることもあります。

さいごに

 以上、手続きの概略を解説いたしました。相続放棄までの期間や、また、相続税が発生する場合には、故人の死亡後10ヶ月以内に確定申告が必要となるなど、時間的な猶予の無い中で調査が必要となりますので、故人の方の追慕の念もあろうかと思いますが、お早めに手続きに着手されることをお勧めいたします。

 

【専門家は何をする人?】

 これらの手続きは、当事者が自分で行うことも可能ですが、税理士、司法書士、弁護士といった専門家は、これらの手続きをサポートすることができます(各士業がどこまで調査や交渉ができるかは個別具体的には異なります)。

 弁護士の例ですが、トラブルとなる事例だけでは無く、弁護士は依頼者である相続人の代理人としてあらゆる行為ができます。例えば、相続人の調査のための戸籍謄本の申請を行い、また、遺産調査のために関係各所に連絡をとり、最終的には遺産分割協議書の作成の支援まで行います。トラブルとなった場合には、裁判手続も代理が可能です。費用はかかりますが、手続きに不安があったりする場合に、身近な専門家にご相談ください。

 荒川  香遥  氏(弁護士法人ダーウィン法律事務所 代表弁護士)

 寺院の住職を務める父を持ち、本人も9歳の時に東本願寺で得度式を受けました。司法試験合格後は、全国的に取り扱う弁護士が少ない宗教法人法務にも注力しており、宗教法制研究会に所属し、執筆活動などを通じて寺院における法務の重要性について発信を行っております。

 

【弁護士法人ダーウィン法律事務所】

住所:〒160-0004 東京都新宿区四谷3-1-9 須賀ビル5階

電話:03-3354-5330

公式サイト:https://darwin-law.jp/

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