捨てない|サンガコラム「小窓のあかり」 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2020年07月30日

Category サンガコラム

捨てない

小窓のあかりVol.23

 久しぶりに実家に帰ると、両親が断捨離を始めていた。押し入れや戸袋から、二人の結婚以来のモノを引きずり出したはいいが、ほとんどがやっぱり捨てられず、疲労困憊していた。家中、足の踏み場もないほどモノであふれかえっていて、これじゃあ娘を遊ばせるスペースもないわと私も手伝うと、3年前に亡くなった祖母の遺品の中から何通かの手紙が出てきた。その中の1通は祖母から祖父に送った感謝の気持ちを綴ったものだったが、読み終えるとそれは明らかに恋文だった。「私の物差しは露店で売っているまがい物の物差しで、お父さんのたしかな物差しを一生かかってさがす事に致します」。そして、アルバムには祖父と行った旅行先でのツーショットの同じ写真が5枚も焼き増しされて貼られていた。私には祖父の記憶がほとんどない。家庭をあまり顧みない祖父だったらしいが、祖母が祖父を尊敬し愛していたのが分かる。気づけば、父と母も祖母の遺品に見入っている。

 「月夜の浜辺だね」。私が言うと、父も母も「そうだね」と頷いた。

 後日、私が「断捨離、どうした?」と電話で聞くと、結局、何一つ断捨離できず、「あなたの部屋を物置部屋にした」と言う。どうやら私の部屋が断捨離されてしまったようだ。

 
月夜の晩に、拾ったボタンは
指先に沁み、心に沁みた。
月夜の晩に、拾ったボタンは
どうしてそれが、
捨てられようか? 
   「月夜の浜辺」(抜粋) 中原 中也

 

堀江 彩木(渋谷区・諦聴寺)

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