2020年07月30日
Category サンガコラム
久しぶりに実家に帰ると、両親が断捨離を始めていた。押し入れや戸袋から、二人の結婚以来のモノを引きずり出したはいいが、ほとんどがやっぱり捨てられず、疲労困憊していた。家中、足の踏み場もないほどモノであふれかえっていて、これじゃあ娘を遊ばせるスペースもないわと私も手伝うと、3年前に亡くなった祖母の遺品の中から何通かの手紙が出てきた。その中の1通は祖母から祖父に送った感謝の気持ちを綴ったものだったが、読み終えるとそれは明らかに恋文だった。「私の物差しは露店で売っているまがい物の物差しで、お父さんのたしかな物差しを一生かかってさがす事に致します」。そして、アルバムには祖父と行った旅行先でのツーショットの同じ写真が5枚も焼き増しされて貼られていた。私には祖父の記憶がほとんどない。家庭をあまり顧みない祖父だったらしいが、祖母が祖父を尊敬し愛していたのが分かる。気づけば、父と母も祖母の遺品に見入っている。
「月夜の浜辺だね」。私が言うと、父も母も「そうだね」と頷いた。
後日、私が「断捨離、どうした?」と電話で聞くと、結局、何一つ断捨離できず、「あなたの部屋を物置部屋にした」と言う。どうやら私の部屋が断捨離されてしまったようだ。
月夜の晩に、拾ったボタンは
指先に沁み、心に沁みた。
月夜の晩に、拾ったボタンは
どうしてそれが、
捨てられようか?
「月夜の浜辺」(抜粋) 中原 中也
堀江 彩木(渋谷区・諦聴寺)