争続を避けるための遺言書の書き方|終活コラム 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2021年09月07日

Category 終活

争続を避けるための遺言書の書き方

 終活にまつわるテーマを取り上げながら、各専門分野の先生がそのテーマのポイントをわかりやすく解説する「終活コラム」です。

 今回のテーマは「遺言書」です。わずか数枚の紙で故人の遺志をあらわす「遺言書」。しかしそれが、親族を巻き込んで感情的な対立になる「争続」というケースもあるようです。

 そのような「争続」を避けるために、弁護士法人ダーウィン法律事務所・代表弁護士の荒川香遥先生から「争続を避けるための遺言書の書き方」をお教えいただきます。

 大切な方を失った悲しみの中、故人の財産を整理しなければなりません。

 あなたが遺産整理の最中に故人の「遺言書」を見つけたとします。その内容をみて、愕然とすることもあるかもしれません。

 亡くなった人の気持ちがわずか数枚の紙切れとなるのが、遺言書です。そんなわずかな紙ペラで故人の遺志も理解できないまま、相続戦争勃発ということとなります。近年、争う相続として「争続」と揶揄して表現することもあります。

 一方で、故人も相続人同士が争うことは望んでいないはずです。

 本コラムでは、終活の一環として、「争続を避けるための遺言書の書き方」について解説いたします(※細かい法制度には入り込みません)。

1.遺言書の種類とそれぞれのメリット・デメリット

 遺言書は大きく2つに分けられます。具体的には、故人が自分で書いたパターンと公証人という公的な機関を通して作成したパターンです。自分で書いた遺言書のことを「自筆証書遺言」といいます。一方で、公証人という公的機関を通して作成した遺言書を「公正証書遺言」といいます。

 自筆証書遺言は、自らの自署で書面に財産処分の内容を記載して署名と押印を行い作成するものです。一方で、公正証書遺言とは、公証役場と呼ばれる役所で、公証人の面前で相続させたい内容を伝え、その内容を公証人が聞き取り書面にしてくれる遺言書です。

 自筆証書遺言は、作成に費用はかかりませんが、書き方や訂正方法に一定のルールがあり、また、紛失のリスクや相続人に発見されない可能性や発見されても捨てられてしまう可能性もあり、緊急時以外は、あまりお勧めはしておりません。

 一方で、公正証書遺言は、原本が公証役場で保管され、公正証書遺言を検索することができ、見つからないリスクや捨てられるリスクを避けることができます。

 自筆証書遺言と公正証書遺言とにおいて法的な効力には差異はありません。

 以下、その効果やメリット、デメリットです。

<自筆証書遺言>

  • メリット

  ・いつでも作成できる。

  ・費用が掛からない。

  ・自筆のため思いが伝わる。

  • デメリット

  ・作成方法が難しいため、効力が生じなくなる可能性がある。

  ・作成した遺言書が見つからなくなる可能性がある。

  ・一部の相続人に破棄される可能性がある。

  ・故人が認知症などを患っている場合には遺言書の効力が否定されることが多くある。

  ・発見時に遺言書の検認手続きが必要となる。

   ※遺言書の検認手続きについては後ほど解説いたします。

 

<公正証書遺言>

  • メリット

  ・公証人という公務員の立ち会いのもとで作成されるため、紛失のリスクがない。

  ・公証人が立ち会い本人の意思を確認しているため、遺言書の効力が否定されるのは例外的である。

  ・きちんとした書面で残る。

  ・発見時に家庭裁判所に遺言書の検認手続きが不要である。

  • デメリット

  ・作成する際に費用や時間がかかる。

  ・自らの財産を公務員とはえ第三者に伝えなければならないこと

【コラム 遺言書が複数部あるときについて】

 遺言書は何度でも作成をすることができます。例えば、2010年1月1日に作成した遺言書と、2020年1月に作成した遺言書がある場合、どのような取り扱いになるでしょうか。民法では、遺言書が複数あるときは、全ての遺言書を比較し、一番はじめに作成された遺言書を基本とします。その上で、後になって作成された遺言書と最初の遺言書を比べて、変更箇所がある場合には、変更箇所がある部分のみ、最後に作成された遺言書の内容が有効になるとされています。したがって、全てが新しい遺言書通りになるわけではなく、最新のものと抵触する部分がある範囲で後の遺言書が有効になります。

 

2.遺言書が見つかったときに相続人が行うべき手続き

 以前のコラムでも解説いたしましたが、故人の相続手続きでは、遺言書の有無を探すことになります。自筆証書遺言ですとどこにあるかわかりませんので、故人の机や貸金庫などを確認することになります。また、公正証書遺言が作成されている可能性がありますので、最寄りの公証役場で遺言書の死亡が確認できる書類と相続人であることがわかる戸籍謄本があると、公正証書の有無を検索できます。

 このような手続きを経て、遺言書が見つかった場合に、公正証書では、遺言書の検認手続きが不要なのですが、自筆証書遺言の場合には検認手続きが必要とされています。

 具体的には、自筆証書遺言書が見つかった場合には、最寄りの家庭裁判所に持ち込んで中身を確認する手続きが必要となります。この手続きを「遺言書の検認」といいます。検認の手続きは法定相続人全員に遺言書が見つかったことを知らせ、遺言書の内容を見ることができる機会を与える点にあります。そのため、相続人の調査が必要となるなど、手続きとして極めて煩雑です。

 また、遺言書の検認はあくまで、見つかった遺言書の内容を形式的に確認するものですから、その効力を保証するものではありません。例えば、認知症がかなり進んだ方が書いた遺言書で、誰がどうみても、法的な効力がないものであっても検認手続きは必要となります。

 

【コラム 自筆証書遺言保管制度】

 自筆証書遺言の最大のデメリットは、紛失の可能性と発見後の検認手続きの2点です。令和2年7月から新しく始まった制度として、法務局で自筆証書遺言を預けて保管できる制度が発足しました。手続きの手数料も数千円程度で、公正証書と同じく相続人は故人の自筆証書遺言の有無を照会することができますし、もし見つかった場合には検認手続きが不要とされている点で、活用が期待されていますが、実際に法務局に出向いて手続きが必要であるなど手続きの煩わしさがある点がデメリットといえます。

 

3.遺産分割協議と遺言書の関係

 見つかった遺言書は故人の遺志ですので尊重されることになりますが、一方で、「全部の財産を愛人に渡す」といった内容の遺言書の場合、配偶者や実子などの相続人が怒ることは想像に難しくありません。この場合、故人と近しい間柄の一定の血縁のある親族には、遺留分(いりゅうぶん)と言って、相続財産から必ず一定割合を取得できる権利を有します。

 したがって、遺言書は故人の遺志を尊重はしますが、一方で、相続人の権利も保護されているので、全てが遺言書のとおりに財産を分割しなければならないわけでもありません。

 また、相続人全員が合意すれば、遺言書とは異なる内容で遺産を分配することも可能です。

4.争続を避けるための遺言書の作成のポイント

 相続トラブルの本質は、私は相続人の間での不平不満が主な原因ではないかと考えています。例えば、4人家族(父、母、2人兄弟)がいた場合、お兄さんだけ溺愛されて、弟が冷遇された場合、お父さんが生きているときはまだ家族としての輪は「お父さん」を通じて保たれているかもしれませんが、輪の架け橋となっていたお父さんが亡くなったとたんに、兄弟は「平等な関係」となるわけです。兄は、「弟なんだから言うことをきけ」と思うでしょうし、弟は「さんざん兄が優遇されていたのだから僕の分け前は多くほしい」などと思い紛争へと発展してします。そんな感情があるのに、お父さんは兄に有利な遺言書を残したら、どのような事態になるかは想像に難しくありません。

 つまり遺言書を書く場合には、残された相続人同士の関係やこれまでの人生をきちんと考えてあげる必要があります。安易にうちの家族は仲がいいからと盲信するのは黄色信号といえます。

 また、先程の4人家族の事例で、兄弟間は平等な立場ですので、その一つ上の立場である両親が生きている間に、可能なら、両親が遺言書を書く場合には、兄弟に遺言書の内容を伝えるべきです。兄弟間の横の関係ではなかなか納得は難しいものですが、上の立場からの話であれば、納得も可能な場合があるからです。

 したがって、ポイントとしては、①相続人同士の人間関係をきちんと考えて相続財産の分配を決める必要があること、②可能なら生前に自分の死後にどのようにしてほしいか相続人に伝えておくことです。

 また、遺言書が破棄や見つからない可能性もあるので、③公正証書遺言で作成すること、この3つがポイントといえます。

 

【コラム 遺産分割のトラブルは金持ちの泥沼の争いなのか?】

 何をもってお金持ちと定義するかは難しいですが、平成30年の裁判所での遺産分割調停の争われた遺産金額は、

  ・1000万円以下が約3割

  ・5000万円以下が約4割

という統計になっております。よく遺産分割でのトラブルと聞きますと、お金持ち(資産金額数億円~など)が争っているものと想像しがちですが、約7割強のケースは、財産金額5000万円以下でのトラブルであることが統計からわかります。私の所感としては、遺産分割協議でのトラブルの本質はお金の大小ではなく、「あいつにだけは渡したくない」という感情論の対立が原因ではないかと考えております。

 

 

 

5.さいごに

 以上、遺言書について解説いたしました。遺言書の作成は自分の人生とも向き合うことになります。向き合う中で新しい自分を発見したり、今後の人生をどのように過ごすかわかってきたという声もあります。遺言書の有無で相続のトラブルはぐっと減りますので、生前の対策が肝要です。

 荒川  香遥  氏(弁護士法人ダーウィン法律事務所 代表弁護士)

 寺院の住職を務める父を持ち、本人も9歳の時に東本願寺で得度式を受けました。司法試験合格後は、全国的に取り扱う弁護士が少ない宗教法人法務にも注力しており、宗教法制研究会に所属し、執筆活動などを通じて寺院における法務の重要性について発信を行っております。

 

【弁護士法人ダーウィン法律事務所】

住所:〒160-0004 東京都新宿区四谷3-1-9 須賀ビル5階

電話:03-3354-5330

公式サイト:https://darwin-law.jp/

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