2019年04月19日
Category サンガコラム終活
老いるについて―野の花診療所の窓から Vo.46
春男さんは88歳、二人暮らし。小型犬のナナは半年前、13歳で亡くなり、二人は寂しい。病気は肺気腫と右心不全。在宅酸素療法中だが、酸素を吸ってるのは枕か布団。足のむくみに処方した利尿剤は引き出しに山盛り。
85歳の小柄でヨボヨボに見える奥さん、「えいっ」と車を運転しスーパーへ。「好きなもんなら食べてくれます」。うなぎとどん兵衛は食べるそうだ。見事な二人三脚。
4、5年前から2週に1度、往診する。両足のむくみがひどく、診療所へ入院を、と勧めるがいつも決まって「しません!」。諦めて、ならばと雑談をする。「お母さん、ボーナスの12月は辛かったな」「そうでしたね」。春男さん、従業員6人の小さな鉄板工場を営んでいた。
12月はボーナス支給のための資金繰りで、二人で銀行や信用金庫に頭を下げて回り、やっとのことで支払い、正月を迎えたそうだ。「ありゃ、苦労だったね、店閉
めて良かったな、お母さん」「そうでしたね」。早春のころにも、「息が苦しそうで」と奥さんから電話が入った。往診して入院を勧めたが、やっぱり「しません!」だった。その繰り返し。
去年の 月、診察中に電話が入った。「夜中、ベッドから私の布団にズリ落ちて、動かなくて、息も変で」。「今回は入院しましょ!車に乗せれる?」「いや、無理です」「分かりました、救急車呼びますから」。奥さん、一息して「先生、あのー、もうそんなんじゃないようなんです」。う? 電話を切り、外来を中断し、現場へ急行した。
車を降り、ドアを開け、いつもの部屋に立った。一瞬で分かった。「そうでし…