2019年09月01日
Category インタビュー
サッカー解説でおなじみの松木さん。試合が始まると、視聴者と一緒になって応援にまわる。サッカーが好きでたまらない。自分の個性を生かしてプレーができる、世界の共通語であるサッカーの魅力をみんなに伝えたい。
学校のチームが暁星アストラといって、入学した子の多くはサッカー部に入るんです。ぼくも友達が欲しくて、サッカー部に入りました。学校はフランス系カトリックの学校で、日本のサッカーの歴史をたどると、アストラというチームが日本で初めてサッカーを始めたという文献があるんです。
体格もそんなに大きくないし、とにかくがむしゃらに一生懸命やるというタイプの選手でした。中学で、一時期スランプで苦しんでいたとき、たまたま行った縁日のお店に「己の実力を嘆くよりも、己の努力を悲しめ」という言葉があったんです。その言葉がどうしても気になって、ずっと自分の部屋に飾っていました。自分にネガティブになって落ちこむよりも、まだ努力が足らないと思うことによって、逆に自分にとって前向きにポジティブになれる。だれの言葉か知らないのですが、時代が変わっても、仕事が変わっても、同じことが言えると思います。ぼくの原点である一生懸命にやる、一つずつ積み重ねていくという部分では、ぼくにとっては大事な言葉となりました。
いろいろな競技がありますけれども、サッカーは世界中で親しまれている競技なんです。サッカーは世界の共通語だなんて表現をされる方もいらっしゃるけど、大きい選手も小さい選手も、どんなタイプの選手でも、自分の個性を生かしてプレーができる競技ですね。両親から受けた先天性の身体能力ではなくて、むしろ後天的な、いろいろ考えたり、工夫したり、努力したりという部分で、チームの一員として自分の個性を発揮できる。それがやはり魅力ですし、いたって人間的な競技だと思います。
また、人生みたいに、いいこともあれば上手くいかないことも起きます。ワールドカップのベルギー戦。いい状況だったのが一転して、たった9秒で点を取られた。想像もつかないようなことが次の瞬間に起きる。 サッカー界では「子どもを大人にして、大人を紳士にする競技だ」とよく言われるんです。だからこそ、ぼくみたいにちょっと体格に恵まれなかったり、そんな強烈な選手ではなかったけれども、一つひとつ積み重ねていくことで答えを出せる、そんな競技に出会えたことは本当によかったなと思っています。
まつき・やすたろう 1957年、東京都生まれ。小学4年で読売サッカークラブ入部。16歳で同クラブのトップチームに最年少選手登録され、右サイドバックとして活躍。日本代表として、ロス五輪やソウル五輪予選などに出場。現役引退後は、ヴェルディ川崎の監督などを務める。近年はTV解説者、サッカー教室など他方面で活躍中。
撮影:児玉成一