2019年12月28日

Category 終活

74歳の妊娠

老いるについて―野の花診療所の窓から  Vol.51

2019年9月5日、インド南部のアンドラプラデシュ州で、びっくりするような出来事があった。74歳の女性が不妊治療のあと妊娠し、双子の女の子の赤ちゃんを帝王切開で出産した。そんなことが可能なのかと、耳を疑った。報道によるとご主人は82歳。そこまでするかあ、とも思ったが、男性の年齢としては世界を見ればかなりの高年齢の人もあろう、と想像した(でもあの映画俳優チャー
ルズ・チャップリンが73歳で父になった、以上の情報は入手出来ていない)。驚いたのはやはり女性の年齢。ただちょっと考えさせられたのは報じられているインドのその女性、マンガヤマ・ヤラマティさんの言葉。「子どもがいないことで、村の人たちに悪口を言われたり、近所の集まりに入れてもらえなかった」。何ということだ。

ネットを見ると、本人は「このうえなく幸せ」と言っているのに「非倫理的」「危険すぎる」「超高齢出産について規則が必要」「誰が育てる」などの批判が次々に登場しているようだ。近代医療の進歩のおかげをどこまで人間は望んでもいいのか、という峡谷に落ちた問いに向かわざるを得ない。

日本で出版された本に、インドに負けないくらいの題名の本がある。『九八歳の妊娠』(下村恵美子著・雲母書房)。 登場するのは九州、博多にある宅老所「よりあい」で暮らしていた98歳の大場のおばあさん。ある朝、小さい声で「おなかに、どうも赤ちゃんがおる、産んでもよかろうか」。「どうぞ産んでください」とひるまずやすやすと著者の下村さん。大場さんにお子さんはなかった。「産みきろうばってんが、私ゃ育てきらん。手伝ってもらえんか」「はい、お約束します」。する
と安心して眠りについたと。下村さんは「お父さんは?」と聞くが「言わん、迷惑のかかる」と大場さん拒否。他言無用と約束すると、「内緒だぞ、往診にくるお医者だ」と。しばらくしてウンコがどっさり出て、妊娠のことは言わなくなった。

インドと日本、現実と妄想、違いはするが、妊娠の持つ深みを問われ、教えられる。

 

 

徳永 進 (医師)

病院内科部長を経て、01年、鳥取市内にホスピスケアを行う「野の花診療所」を開設。82年『死の中の笑み』で講談社ノンフィクション賞、92年、地域医療への貢献を認められ第1回若月賞を受賞。著書に、『老いるもよし』『死の文化を豊かに』『「いのち」の現場でとまどう』『まぁるい死』など多数。

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