2024年01月01日
Category サンガコラム
左手の小指を怪我してしまった。
張られた布地に思いきり突いて、痛めてしまったのだ。症状名は腱性マレット指。簡単にいうと、バネが切れたような状態で、小指の第一関節から先が曲がったまま戻らなくなってしまったのである。
とはいえ当初はかなり楽観視していた。利き手ではないし、痛みもない。曲げられないのであれば確かに不便だが、曲がったままならば、重い物も普通に持てるし、運転もできる。パソコンのキーボードも問題なく打てた。うん、何一つ不自由はない。妻からは再三、病院に行くよう勧められていたが、内心は、そのうち勝手に戻るだろう、などと軽く考えていた。
ところが、ある時ふと気がついた。なんとなく手を合わせてみると、合掌が全然うまくできないのだ。その時に初めて分かったのだが、私の場合、合掌するときに、本を閉じるように小指から順番に指を合わせていた。無意識だが、小指を使って手の形を調整していたのである。だから、要である小指が曲がったままだと、他の指も合わなくなり、どうしても不格好になってしまう。私にとって、合掌という作法の主役は、この小指だったのだ。
役に立たないどころではない。私の知らない一番大切なところで、毎日、私の祈りを支えてくれていたのだ。そんなことに気がつくと、急にこの指がたまらなく愛おしく感じられた。次の日の朝、私はすぐに病院に向かっていた。
花園 一実
1982年生まれ。圓照寺住職。二児の父親。
『帰り道で話そうよ-マンガで味わうブッダの教え』(東本願寺出版)の原案を担当。