つらい思いに悩む人の最後の砦になりたい|NPO法人「あなたのいばしょ」理事長 大空 幸星さん 真宗大谷派(東本願寺)真宗会館

2022年04月08日

Category インタビュー

つらい思いに悩む人の最後の砦になりたい

NPO法人「あなたのいばしょ」理事長 大空 幸星さん

誰かに頼りたくても頼れない、話したくても話せない―
「望まない」孤独を抱えている人に寄り添うため、チャット相談に特化したNPO法人「あなたのいばしょ」の活動を始めた。日本初の24時間365日無料のチャット相談窓口である。

 小学校に入ったころに両親が離婚。不登校、入院。親も先生も、友人も、本心を打ち開ける人は誰もいなかった。高校では、アルバイトをしながら学校に通った。心身ともに追い込まれていった。 

 生きる苦しさが、死ぬ苦しさを上回る瞬間があるんです。高校生のとき、3月の寒い夜でした。どうしようもなくなって、長文のメールを担任の先生に送ったんです。そのまま疲れ果てて寝てしまったのですが、ふと目が覚めると先生からの着信がいっぱい入っていた。電話すると、ずっと先生はぼくのマンションの下で立ってくれていたんです。ぼくはそれまで信頼できる人に会ったことがなかった。けど、もしかしたら、この人は頼れる人かもしれないと。その安心感が、あのつらい生活から抜け出すきっかけとなり、背中を押してくれたんです。

 自分と同じ「望まない孤独」を多くの人が抱えています。それは子どもたちでも同様です。家庭や地域で支えてあげるのが理想だけど、悠長に待ってられません。だから、子どもでもアクセスできるよう、匿名で、顔も声も出せなくてもいい。苦しいとき、誰かを頼りたいと思ったときに、いつでも話を聞いてくれるチャットというツールを選びました。頼れる人との出会いが奇跡であってはならない。あなたの居場所があることを、子どもたちに伝えたいと思ったんです。

 開設した日、40件の相談が来て、次の日から急いで相談員の募集をかけました。どんどん手を挙げてくれて、お医者さんもいれば看護師さんもいる。これだけ死にたいって人がいる一方で、そこに手を差し伸べようとする人もいっぱいいるんです。

 

 「親ガチャ」という言葉がはやった。どんな親のもとに生まれるかは運まかせで、スマホゲームの「ガチャ」になぞらえた言葉である。大空さんは、「自分の境遇はただの偶然だ」と思わなければ生きていけないような子どもたちの悲鳴、また自己否定のループに陥らないための、自己責任にあらがうために生まれてきた言葉だという。

 相談してくる子どもたちのなかには、親や先生に心配をかけたくないという気持ちを抱えた子がいっぱいいるんです。ぼくは懲罰的自己責任論と呼んでいます。結局自己責任のみが蔓延して、苦しいことや悩みがあっても、これは自分の責任だから迷惑をかけたらいけないと。相談することを、ある意味負けとか恥ずかしいことと考えてしまい、頼れない。すごく優しい繊細な子が多いんです。

 そんな子どもたちでも頼れる場所、第3の居場所みたいなものが常に必要だろうと。重要なことはゆるいつながりなんですね。いざというときに頼れる場所がある、そんな場所であり続けたいなと思っています。

 おなかが空いたらご飯を食べて、のどが乾いたら水を飲むのと同じように、孤独を感じたら誰かとつながらないといけないじゃないですか。誰かに頼ることで、孤独を乗り越えることだってできるんですね。だから、まずは頼れる場所をつくっていかなければと思うんです。

 

 

<Profile>

オオゾラ・コウキ

1998年、愛媛県生まれ。NPO法人「あなたのいばしょ」理事長。
慶應義塾大学在学中。2020年3月、「あなたのいばしょ」を設立。2年弱で、DV、ネグレクト、過剰なストレスで悩む人など、老若男女問わず多くの人々から20万件以上のチャット相談を受ける。国会にも働きかけ、孤独担当大臣の創設や、孤独政策の方針作成にも尽力。

望まない孤独』2022年3月2日発売定価:913円(税込)(扶桑社新書)

写真・児玉成一

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