2019年08月18日
Category サンガコラム
カメラを持って街に出よう
カンボジア、バッタンバン州。瑞々しい雨季の午後。
この水滴の一粒一粒が、豊かな大地を築き、野菜や果物、自然の恵みを育んでいくのだ。
時折滞在させてもらっているカンボジアの村で、「一滴、一滴が筒を満たす」という諺を教えてもらったことがある。現地では欠かせないヤシの樹液は、幹から一滴ずつしかしたたってこない。けれども時間をかければ筒を満たし、人々はその樹液で砂糖や酒をつくることができるのだ。日本の諺でいえば、「ちりも積もれば山となる」に近い。
カンボジアでシャッターを切っていると、作物を育てること、収穫すること、あらゆる営みにこの言葉が通じているのだと実感する。そしてそれは、数十年にわたる内戦の混乱から、少しずつ日常を取り戻そうと力を持ち寄り合ってきた、人々の姿にも重なる。
思えば私たち写真家の仕事も、一枚一枚の積み重ねだ。「果てしなく見える道のりも、諦めずに」と、優しく背中を押してもらったように感じた言葉だった。
安田 菜津紀(やすだ・なつき)
1987年神奈川県生まれ。Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。